リードづくりのこと

オーボエは複簧管楽器、二枚の葦(リード)のペラペラがぶつかり合い乍らビリビリと出る音を整えて聞けるようにする楽器である。ペラペラを指して専らリードと呼んでしまうが、オーボエの場合、これは本来自作するものだ。
近ごろでは沢山完成品が売っているものの、使えるようにしていく、また維持していくには必ず削り込み調整が必要になる。そのまま幾ら頑張って大事にしても、葦が元々生き物だった為、水を吸ったり吐いたりして硬くなって来るし、太って来て、買ったままの姿では無くなっていくのだ。
完成品は高価(1000円から天井知らず)でもあり、消耗性も高い(使い続けると一日は持たない)ので、孰れ勿体無くなってくる。小遣いも詰って来る。結局どうせ削らなければならないなら、最初から作る努力は積んでおいた方が時間が無駄にならずに済むものだ。余り本気にならずとも、結局常時4〜50本は携えて歩くことになるであろうこれ、最初からやるのは面倒だとか、不器用だから出来ないだろうとか考えるのは早合点というもので、慣れてしまえば案外簡単に出来る。
モノの本やら、インターネットの中には、「リードを完成させる」終り半分に就いては結構詳しく述べられ、役立つ。削り初心者にとって、大分不安が取り除ける情報だろう。しかしながら、前半乃ちリードの筒(葦の切りっぱなし)から割り抜いて削り出すところについては案外触れられていない。それは、この作業には専用のマシーンが要ると考えられている、或いはそう教わった人が多いからだ。先入観というのは結構恐い。専用の機械はガウジングマシンと呼ばれ、要は厚みを決めて鉋がけをする道具なのだが、これがマタ高い。近ごろは、ちょっとしたオーボエそのものが買えてしまう額だ。先ずその機械を買うという辺りで無理矢理つまづかされている嫌いがある。そんなものがあったからといって、月に5個かそこらのリードを組み上げればいいレベルの素人にとっては、賢い素人が考える通り、無駄である。工夫をして、手間を掛けて、楽しくやれば良い。

で、DIYコーナーの始まり始まり!

1:お道具をそろえる
お道具一式。これだけあれば、オーボエのリードを作る元の形にまでは出来る。この中で、自作したりその辺りで調達出来ないと考えた方がいい専用のものが二つある。イーゼルとシェーパー。これだけはしょうがないから楽器屋で求めること。その他のもの、特にガイドと削り棒は工夫して作る。先ず直径8mmの木の棒を作り、それを元にして角材に10mm径の丸い溝を掘る。向こうエンドになる部分に木で釘を作って止めにする。削り棒には、住友スリーエムというメーカーで有名な、裏に糊が付いているサンドペーパーを貼付けて使う。150番は仕事が早いががさがさが少々残る。余りコマイと平たくする前に角ッこの方ばっかり薄くなったりする。どっちもどっちである。削り刀は安い彫刻刀の丸刀の先端角を落として刃をつける。加減はめいめいで工夫する。切り出しは、ここでの作業には高級品は要らない。しかし大きすぎると旨くいかない。まな板はカッティングブロックといって楽器屋で売っているが、ここでの用途としては最後の仕上段階で使う程度なので硬い木で出来ていれば何でも良かろう。この他に砥石が要るし、研ぐ練習は完璧に積んでおくべき。

道具の他の用意として、紙パック式の掃除機を挙げる。葦は結構硬いので、サイクロン掃除機に吸込むと中で暴れてダストビンが傷だらけになってしまう。
その他、健康保険証、止血用に清潔な布、新しい包帯、当該時間帯に営業中の外科の診療所の下調べを勧める。最近刃物を使うのが苦手な人がとても多くて、マンツーマンで教えていたりすると恐くて恐くてしょうがない。

2:材料を買う
材料を買って来なきゃ始まらない。葦の筒を切ったものが売っている。一個200円くらいからある。

しかしこれ、見ての通り、いろんな格好をしているしいろんな太さがある。

実は余り細かいことをいっていられないという実情がある。楽器屋がこれを置いていたとして、取り寄せるとして、ままどちらにしても、選んで並べることは無理なのだ。だからどさっとバルクで仕入れておくと、お客が選んでしまう。大分経ってからのお客になると、変なのばっかりしかないと思うこともあるし、それが元々だと思うこともある訳だ。だから、余り気にせず買うこと。仕上げは努力と工夫で補う。但し材料の直径が10mm〜11mmのものでないと、完成したリードの開き加減を調整し切れないので、ここで気にするのは細すぎず太すぎずというところ。
充分選定された材料は、選定という熟練の技術が必要な為大変高価になる。余り高価な材料を使っては、ここで示す加工法は危なっかしくて却って不味い。ここでは、安い材料とか、または自分で自然の中から探して来たような材料を使うことを前提にしているのでご理解を。

3:材料をけがく
丸を踏んづけて平たくして使う訳ではない。セクタを切り出して、甲丸にしてつかうのである。この段階では余り水を吸わない為濡らさないようだ。専用の三つ割という工具があるのだが、刃の形が複雑なので研ぎ等保守が大変。また高価だから、余程数を作る人でないと意味がないだろう。同時に工程毎の歩留まりも、どういう訳か専用器材を使った方が悪い。幾ら素材が安いといえど、一個200円の筒から3個のリードが仮にも作れる可能性を最後迄残したいと思うなら面倒でも手で割った方が得だ。
単純に1/3円周にすればいいというものでなく、出来上がりのリードがどう開くかを想像し乍ら無駄之ないように目印を入れ、葦の繊維にそって切り出しでケガキ目をいれていく。皮は硬いから、目印の辺りで充分切り、あとは筋が誘うが侭にゆっくり切れ目を入れる。3つの目印全てに対し同じようにやる。

4:材料を割る
慎重に割る。

でもじっくりやれるのは最初の一本目だけ。あとは勢い良くパッキリ剥がれるように割れて来る。目印の方からそっと切り出しの先を切り込んでいくと割れが走り出す。コジらないようにそっと割れに沿ってナイフを進めると自然にぱっかり割れる。次に二本目の切れ目を同じようにやると右の通り、サクがひとつできる。最後の切れ目にナイフを立てるとたちまち割れるので注意。ここが一番怪我を誘う作業。大体不慣れな刃物仕事、怪我には要注意。

5:材料を薄くする
割った材料を半日がところ水に漬けて湿らせたのを一枚、9に出て来るシェーパーの先の幅より2mm位広い程度に細くして、先のように工夫して作った削り台に置き最初に向こう側から薄くしてみる。手前からイッキニやってしまいたいだろうが、厚みの感じを得る為に敢えて削り辛い向こう側からやる。厚みの感じは名刺3枚位。切り口の円周が大体そんな感じになるように削る。

旨い感じになったら前後を入れ換えて、今度は手前から削る。繊維が同じように表面に並ぶよう、一寸づつやること。多少でこぼこなかんじになるが後で均すので削り過ぎないようにだけ気を使う。

6:薄くした材料を均す
先の木の棒がここで登場。繊維が均一に現れるように真直ぐ当てて均す。

ごしごしやるとたちまち削り過ぎる。

この段階で、ダイヤルゲージで厚みを測ることになってはいるが、先に述べる通り、選定作業が素人仕込みでは、ゲージで当てに出来る程材料の仕上がりが均一でない。求めるのは、加工した材料が皆同じような腰の強さになることで、インチキ臭いこの作業がそれを決定付けるものとなる。職人技はここで生きる。経験が何よりだ。だからあれこれ迷う前にどんどんヤレというのである。
厚みに関しては好みもあるしなんとも言えないが、最大で0.6mm程度であることが望ましい。余り薄くすると音程が不安定になる。厚すぎるとジャーマン・フレンチタイプのショートスクレープは無理になる。と、いうことは、薄いより厚い方がまだ使い道がありそうだとも言えるが、チューブに巻けなくなるのでやはりノギス程度でいいから測った方がよい。

7:イーゼルにかけ、長さと折り位置を決める
6で出来た材料を、30分以上水に漬けて柔らかくする。
充分柔らかくなったら、この先の9に出て来るシェーパーの先端の幅より2mm程余分を残して要らない端を切り取る。ちょっとナイフを差し込むともうスパッと切れてしまうので切り詰め過ぎないように。
その後イーゼルに乗せて長さを決める。両方のエンドは無視して、繊維の並びの綺麗なところをイーゼル両端の太いところに掛け、段差に合わせて切り詰める。長さが決まったら、真ん中の溝の位置の皮に切れ目を入れる。このとき切れ込みを深くし過ぎないこと。あくまで皮の部分だけを切り、内側の繊維は残すこと。

8:折り曲げる
真ん中の切れ目を上にして山折にする。
気をつけないと皮だけ剥けて来てしまう。余り長く剥けてしまうと失敗作になる。

この時、始めのダメだしを受ける。内側の繊維部分が割れてしまうことがあるのだ。皮は割れても瞬間接着剤を流し込んで直すという荒技も使えるが内側は絶対割れていてはいけない。割れる原因は材料そのものの他に、充分湿っていなかったということもある。手を抜かずにゆっくり進めよう。

9:シェーパーにかける
このシェーパーという道具、ハンドルとチップに別れていて、合わせて6万円位はする。高価に思うがどうしてもこれがないとリ−ドの形を作るのは殆ど不可能と思われる。

折り曲げたリード材の折り目部分から金具先端迄に無理のない程度の余裕を与えて、しっかりとチップに合うように向こう側を何かで押さえてシェーパーハンドルの金具を締める。この時チップ先端部のはみ出しが同じようになることと、繊維がチップに対し全く平行に並んでいることが重要。同時に充分湿っていること。この作業は何度でもやり直しが利くのでちゃんと合う迄やること。

10:ミミを削りそろえる
ちゃんと掛かったら、チップのサイドに合わせ正確に、何度もごしごしやらずに、はみ出た材料を削り去る。幾度も刃を走らせると幾ら型に嵌めていると言えど、斜めに削れたりカタチンバになったりする。

両方のふちをこうしてしあげ、シェーパーから外して材料作りが完了する。

ここまで戸惑わずに一応出来るようになる迄に、とっかかりから毎日2〜3個やっても三月は掛かる。たまに必要な分だけやる人では三年掛かってもまだ戸惑うだろう。焦らずゆっくりやろう。

11:フネのできあがり
シェーパーから降ろすとこういうカッコウになっている。
こういう形に仕上がった材料をフネという。
この両端を斜めに削って、巻き易くする時には、必ずまな板に載せて行うこと。斜にする長さは2〜3mmにとどめる。
この形で保存するには、よく乾かしてしっかりした箱に入れて潰さないようにする。チューブに巻く前にはまた30分程水につけることを忘れないように。

フネになったものを楽器屋で買うと300円くらい。な〜んだ、苦労しても200円と少しくらいしかもうからないのか、と思うなかれ。自分の音色を楽しめるのだから苦労等なんでもなくなるというもの。この作業の価値を分かって始めてオーボエという楽器が理解出来たことになる。

最初に割る作業をする専用工具は7千円位、削る専用工具は30万円位である。その後リードの発音体として完成させる為に荒削りする機械は30〜40万円位である。全てを機械力でやろうとするとうすら百万掛かることになるが、毎日数本のリードを必要とするシゴトの人なら兎も角、何ヶ月かに一度、一個か二個の完成リードを買ってやっている素人が自作作業をする為に奨められる額のものでなないし、たまにしか使わない専用工具は使う度に叩き起こす必要も出る。私はそういう道具が数回使われただけで仕舞われっぱなしになっている例を数多知っている。百万あれば一年食えると考えてみるなら、工夫と努力で補える部分は人間なんだからやってみようではないか。

こうして作ったリードは、直ぐにチューブに巻かないで、少なくとも2〜3日は養生したほうがいい。材料が落ち着かない為、ろくなリードにならないものを作ってしまう可能性がある。
厚みが多少バラバラなのは致し方ない。その為、チューブに巻き付けて削りを入れる段階でスクレープは少し短かめに削り、試し乍らだんだんと長く削って良く鳴るところを求めていく。