命中に向けて

始めのうちは、中らないのは銃の所為だといってあれこれ求め捲る人も多い射撃の現場ですが、その前に中る為に必要なことを総べて納得いくまで試し尽したかをよく考えたいものです。道具のみならず、狙いが悪いか、的の見出しか、そんなことを考えているうちは初心者です。
ただ、種目は多岐に渡るので、どの種目に於いても通用するような留意点ばかりになりますが御勘弁です。

兎に角、銃を正しく構えましょう。

体格その他身体条件により人各々となりますので個人的に研究しなければならないことなのですが、先ずある程度達者な人から習う機会を得たいところですね。そして、習った中から、引き金を必ず自分の喉に向けて間断なく静かに真直ぐ引ける姿勢に繋がるソースを見つけて下さい。
照準の要となるものは姿勢です。照準に先立つ見出しも、姿勢そのものが出来ていなければ気遣う必要にさえも迫られていません。

ライフル射撃を習っている人の多くに、肩の線と平行に前面移動しているような姿に落ち着いてしまっているのを見かけますが、この状態では真直ぐを体得すること自体難しいものです。照準をする時に頭が横に傾いているようなら、この状態と考えて下さい。必ず斜めに引き金を引いています。引き金は握るのではなく、一定の方向に移動させるべきものですから、一定となるべき線が身体にとって自然である形をつくってやるのです。
姿勢の中心は足のように思われがちですが、足の位置は補足的なもので、中心をなすのは利き手の位置と形です。クレー射撃で伸びない人は、銃把を外側から握っています。きちんと上から覆うように握れているか。確かめて下さい。ライフルも、下から持ち上げているような形をとっている人は多いのですが、これでは最後迄銃を暴れさせているようなものです。
自然に、体の幹に銃が乗るように、また自然に、標的への直線上に据えるようになるまで、根気よく練習します。自然に据えられるなら、照準線に対して極自然に体が開く筈です。これを過度に大きくとらず、もうこれ以上は閉じられないところを支えと出来るように見つけていくことがこの段階では必要です。

正しい握りが出来ていれば、ライフル射撃では利き腕肘は自然に肩と同じくらいの高さになり、クレー射撃では水平よりやや下がった姿になる筈です。ピストル射撃の場合は銃把と照準線の高さの違いが機種により違うので一概には言えませんが、最もモダンな射撃銃では下から銃を持ち上げているような姿にはなりません。いずれもこの形によって、引き金をプレスする指の動きの方向は、自ずと喉に向かうように出来る筈です。旨くいかない時は引き金の位置を後退させるか、銃把の形状を少々加工する等工夫してみましょう。
また、長い銃を仮に右利きとして左手でスイングさせるようになると、右手との間にパララックスに似た相違が現れ、まぐれ以外の制御法がなくなります。ライフル等重い銃で定点に着弾させるには重心の真下に肘が入るように、散弾銃は正面から見たら綺麗なハの字であり、横から見たら左右の腕が重なった形がW型に見えるように。ピストルは手首や肘を折り曲げず、照準線は視線そのものとなるように。鏡を用意して研究して下さい。正しく構えられれば、緊張は相当少なく、そして楽です。ライフルやピストルはそれだけで黒点内を捉え、散弾銃は仮令クレーを破砕しないまでも追い付かないことはなくなってきている筈です。
それが出来上がることで、案外自然に引き金を引くことが出来ます。引き金はおっとびっくりやれどっかんと引くのではなく、さっと喉元に向かって攫い流すように引きますが、銃があっちこっちに振れ回る不自然な構えからは自然な引き金の動きを作り出すことは無理です。
注意点は、それまでは足は自然にそれができる位置に置くことです。ただ、どんな銃種でも、はじめは肩幅か、やや広めに、足の向きはつま先をその幅分程度正面から外に向けるようにだけ気遣い、両足を結ぶ線が何処を向くかは気にしないことです。狭めたり、つま先を開く角度をいじり廻すとそれが上体に影響し折角の姿勢を壊していきます。
見出しは構えに対し自然に追随して来るべきです。不用意に標的を見つめないで下さい。視野の中心には常に照星があり、標的はそれに対して然るべき位置にある必要があります。標的の距離と高さが決まっているライフル種目では、正しく構えると自然に圈的に銃が向くものですので、そのように構えを作っていきます。クレー射撃は立体度が高いのですが、標的の速度が決まっているので飛翔線は自ずと定まりますから、飛翔線の何処で発射するか自分なりのペースを見い出していきましょう。その為には、照星をよく見て下さい。標的に目の焦点を合わせてはいけません。照星を見失うと失中あるのみです。
これらを具現化するには、銃が身体と一体になる程いじる必要があります。そう毎日射撃場に出掛けられる人は滅多に居ませんが、その代わり、毎日銃を操って下さい。空撃ちは非常に有効な練習ですが、銃によってはこれを許しません。特にスプリング式の空気銃(スプリングコッキングのエアソフトガンもこれに該当します)は空撃ちで破損しますし、部品に格別の加工をしないと交換出来ないような通常高価な散弾銃は仮令緩衝装置を使用しても極力避けたいものです。部品の入手が難しいアンティークガンも同様です。空撃ち練習装置のついている射撃銃や部品が安価なライフル銃は積極的に空撃ちをしましょう。また、空撃ちの為に、これらの練習中は構造的に空撃ちし辛いものや、珍しかったり高価だったりする銃の使用は我慢して、練習に耐えうる銃を求め使用することも検討しましょう。空撃ちは、漫然と続けるのではなく、引き始めて、終る迄、銃が一点を指し続けるかをみながら練習します。

しかし幾ら有効でも空撃ちに頼り過ぎるのはよくありません。やはり実際に発砲することは必要です。ライフル射場で、余りにも一発づつを大切に思う余り何十秒も照準を続けている人が居ますが、当初のこれは大変な逆効果を齎します。十秒以上照準を維持出来命中を調整出来る人は相当な熟練者ですから、中てられないうちに真似をしてはいけません。照準を始めてから5秒以内に発射出来るようにタイミングを詰めましょう。命中にはファーストチャンスは必須で、クレー射撃やピストル射撃はこれに尽きる程のものです。長い照準をする人は、ファーストチャンスの補足を遅らせられるようになっているのです。発射弾数を重ねていくに連れ、長い照準に耐えられる筋力と呼吸調整、視力のペースが段々に出来て来るもので、そのためのトレーニングは基本的に射撃でしか行えませんので、実射はつとめて行ないましょう。

実包射撃の練習にエアソフトガンを用いることは、有効な一面もありますがまるで無効な面もあります。特に集弾性能の悪いものは命中の感覚そのものを鈍化させます。銃器の氾濫している外国の一部ではこれに相当する商品も多々ありますが日本で販売される許可銃砲にこのような不出来なものに巡り会うのは稀より難しいことです。エアソフトガンで訓練時間を増すには、求めうる最上のものを用意することをお勧めします。


補遺:2015年9月23日
同日、JISSにおいて開催された、ジュニア向け講習会において、ロンドン五輪50m3x40金メダリスト、イタリアのニコロ・カンプリアーニさん、世界選手権10mAR40W金メダリスト、同じくイタリアのペトラ・ズブラシンさんの講習会において、両氏より頂いたコメントを要約して掲載します。

ペトラさん

よく、ありがちなことですが、射撃場に行って、いさんで撃ちまくってもスコアが上がらない。大方の射手が普段経験します。
そういう状態は、練習を始めて大体直ぐ分かるもの。散漫な射撃に時間を使わず、意識して、或いはコーチに様子を訊ねましょう。その様子が見られたら、立ち返って見直します。
一発の射撃の中で、一体何が行なわれているか。
先ず、射撃という行いを幾つのステップに分けて進めているか。足・腰の決めから始まり、発射後のフォロースルーまで、大体11のステップに別れるが、自分はどれだけのステップをふんでいるだろうか。出来る限り、分かる限りで良いから、そのステップを、リズミカルに進める毎回の射撃を作るようにしましょう。自分のステップを考えずに撃ってしまうと、たまたま旨く行くことがあっても、プレッシャーが掛かった時には使えない射撃を育てることになります。
また、勝手に立ちやすい、持ちやすい、撃ちやすい等、姿勢を固めてしまってはいないか。心地よい姿勢より、当てやすい姿勢である必要があり、当たる姿勢は必ず心地よい姿勢とは言えないことを覚えておいて下さい。
さらに、ステップを守り、当たる姿勢を、コンパクトな動作の中に納める。そうしていくと、銃を揺れ難くし、収まりを早く獲得出来ます。
そうしたことが、落ち着いて来たら、3ステップをバンドルした練習に入ってみましょう。
これはエクササイズですが、その段階で命中を大体獲得出来るようでなくては効果が分りにくいのです。
練習には、実際の発射を伴う射撃と、発射を伴わないカラ撃ち、そしてイメージングの三つがあります。撃つからといって、それが必ず敢然な練習ではありませんし、撃たないからといって侮れない動作の確認が必要ですし、イメージすることは、完成を目指すために必要です。
先ず、仲間やコーチと一緒に、銃を持たず、姿勢をとって、自分の射撃ステップを動作し、イメージしていきます。実際の射撃と違っていたら私的を受けるように、普段の射撃を観察してもらいましょう。一発づつの射撃を、最高の最も高いスコアを上げた発射のイメージでまとめていきます。次に、装填しないでカラ撃ちを、そのイメージの演習で行ないます。イメージ通りに操れ、標的を捉え、トリガーを引き、フォローし切れたかを、都度確認します。旨くいったらマルを、思うようにいかなかったらバツを、メモに書き、マルの率が上がるようにします。これで、考えを体の動きに写していきます。そうしてイメージを具体化してから、実際に射撃をします。的に点数が現れ、意識が外へ放たれていきます。それから、またカラ撃ちに戻り、イメージングに戻り、それからまたカラ撃ち、射撃と、繰り返します。
このルートトレーニングは簡単で、チームメイトやコーチとのコミュニケーションを周期的に得られるので効果的です。

こうしたトレーニングは、射撃に必要な五つの要素、技術・精神・身体・戦略・器具のうちの技術を高める方法の最も身近なものです。五つの要素は平均して伸ばされなければなりません。
精神は、如何に試合を闘い抜くか、そしてその最後の一発迄、行動を支え続けることが出来るかが肝要です。これは、沢山の射撃を経験することしか育てきれるものではありません。しっかり練習の時間を取って、正しい技術で数をこなすよう頑張りましょう。
射撃は、そうすることで実用的な身体を作れるものですが、さらなる余裕を得るためにトレーニングを行ないましょう。週に2回乃至は3回、腰と腹の筋肉に余裕ある持久力を与えるため、理想としてはロードバイク(自転車)で二十分程度全力で走るようにするとよいでしょう。
戦略を獲得するには、最も接近したライバルを持つことです。その人のリザルドを追い越し、また追い付かれたら追い越すをくり返せるように。チームメイトからその立場の人を見出せればお互いに伸ばしあいますが、居ない人はいつも同じ試合に出る同じような成績の人のリザルドを利用するようにし、毎日の練習の目標にします。
器具は、案外難しい。愛着があったり、入手しやすかったりするものに固執しがちになるものですから。しかし、ライフル射撃機材は日進月歩で、二十年前の機材では現在最高のフィールドを闘い抜けないと思って良いでしょう。発射する弾ひとつ取ってみても、具体的にはオリンピック毎に刷新されると考えて良く、同じ銘柄同じ品番の空気銃弾でさえ、十年前と今ではまるで違うものになっているのです。ですから、自分が置かれているポジションをよく見定め、適した機材を求め使い込むように常に努めなければなりません。但し、誰でもが最高級のものを必要としているかというとそうではありません。先ず目指す得点が、ARS40でいうところの410点程度なら、銃にはそれほど執着しなくとも、使う弾やウェアに留意する位で大丈夫です。

また、食事は生活の一環ですが、あくまで射撃のための生活という観点で、射撃向けのリズムを形成するには先ず食事のタイミングが重要です。試合に入る三時間前には食事を完全に終えて、試合の時に胃の中に食物が残っていないようにすることは、体幹を使い切るために必要なコンディション作りです。その日だけそうすると、普段の生活とのずれが生じ、いろいろな方面から影響を受けますので、何日か前から試合の時間の三時間前に直前の食事を終えるように整えましょう。

自分がアスリートであるということを認識し、出来ることは全て、それなりの心得でやっていくことが成功の鍵になります。

ニコロさん

私が就いている種目はエアライフルとスモールボアライフルなので、それを中心に機材のお話をします。

先ずエアライフルですが、今は何処のメーカーのモノでも、十発のテストベンチ固定射撃の弾着位置のずれは、着弾のアナの外から外の長さで概ね5.5mmに収まります。弾速は、毎秒170〜185mで+-3mを期待出来ます。
問題になるのは弾です。買って来た缶入りのままでは、全てがその期待値を実現させる性能はありません。弾の先端の平たい部分とスカート部分の変型を全て目視で点検し、少しでも変形しているものは取り除きます。こうすると半分くらいが試合に使える精度の弾となります。除いたものは練習でリズムを作ったりするのに使えば良いのですが、合格させた弾はもう缶には戻さず、マッチボックスに並べたり、スポンジに孔をあけたものを用意して一つづつぶつかりあわないように保管します。こうして選り分けた弾を使うかどうかは、ファイナルに残れる人が30位になってしまう位の違いを齎します。弾は、一つの品番でも4.5mmだけでなく、4.49mm、4.48mmという寸法のものもあります。この寸法は何も好みで選ぶものではなく、実際に先の選定をし、各々、どれが自分の銃に合い、より高く集まるかを撃って確かめ、適する大きさのモノを選ばねばなりません。

エアライフルは手入れ不要だ、というのを信じているとしたらかなり平和な人です。使いっぱなしの銃から放たれる弾が示す点数は、全て10.5より中を撃つ技術がある人でさえ、その3割も10.3に落としてしまう程信頼性を失っているものです。先の弾の検査も、徒労に終わらせてしまう、そういうものです。五百発撃つ毎に、布を銃身に通せる道具を使って2回から3回銃身内をブリーチからマズルに向けて通し、5発程度馴染ませるようにします。清掃のサイクルからして、試合の数日前には必ず、連戦の場合は毎回行なうくらい心掛けましょう。

たった1mm、エアライフルより口径が大きいだけで、50m先を狙わねばならないスモールボアライフルは、トレーニングの直後に必ず手入れをしなければなりません。
一回、ドライモップを通し、モップ交換。
二回、ドライモップを通す。
三回、ソルベントを付けたモップを通す。
二三回、ドライモップを通す。
三回、ブロンズブラシを通す。
二三回、ドライモップを通す。
二三回、ソルベントを付けたモップを通す。
二回、ドライモップを通す。
一回、オイルをつけたモップを通す。
この順除で銃身を手入れします。
手入れにはこうした慎重が必要ですが、22口径ロングライフル弾は、通常販売されている試合用と謳われているものを選んでいれば充分と思います。どの銘柄も試合用のものを作るにあたり、十分に研究がされており、弾速もエアライフルに比べて遙かに速いので、集まりについては信頼出来ます。

次は練習と試合の運用について。
私は2016年のリオデジャネイロ大会に出ることが決まっています。それは今から十一か月後ですが、準備は今から始める必要があります。自分にとっては五輪が最上級の試合なので分かりやすいのです。大勢の皆さんの場合は、どの試合も逃せないとは思いますが、その中で最も大切な試合を見つけ出し、それに向けてオフシーズンに入る少し前から準備をするのです。
重要視する試合の半年くらい前から、極限の数の発射数を確保する期間を二か月程度持ちます。その時に出る試合は、出来れば練習のつもりで、特に高みを求めないように軽くこなしていくようにしましょう。でもそれら試合の中でも、二か月に一度は、目標とするスコアを目指す試合を作り、達成するようにします。重要とする試合に向けて、四か月くらい前からは練習の弾数を徐々に減らし、確実性を意識するようにしましょう。誰かを追い抜こうとするのではなく、自分自身の限界を押し上げていくことを目指して日々の練習をこなしましょう。
勿論、勝つことを思い描くのですが、途中の小さな試合の結果によってプレッシャーが掛かって来ます。そのため心理的に押し下げられていくのですが、そうして潰されなければ飛び上がることは出来ません。潰されるのは自分だけではなく、皆同じです。潰れることを恐れるのではなく、潰されても下がり切らないよう、スコアに反映することがないよう、メンタルトレーニングをするチャンスです。このトレーニングは、沢山練習するとか、或いは少し休むとか、人により効果的な方法は違います。また、前の年に旨くいった方法が、今年使えるとも限りません。目指す重要な試合の前の試合に向けての練習や実際の試合で、目標を達成し、改めて自分の目標を達成出来ることを思い描けるように練習の時間を大切に過ごすことが大切です。