シャープ・パンターゲット

これが、たまたま私の所に巡って来ました。エースハンターの中古品を探していたところ、ある、という店があったので見もせず押さえ、許可後取り寄せてみたらたまたまそうだったという巡り合わせ。運としか申せません。2万円といわれた時点でエースのサイドレバーでは有り得ぬことに気付けば良いものを、受け入れてしまいましたので、たまたま、再び手に取ることになりました。
これは三姿勢用のストックを持たない簡易型の方です。

驚く程のブルバレル状態を呈する銃身は曲げようったって曲りません。このため、軽便な狩猟銃にも見える容姿からは想像出来ない安定性。狩猟銃射撃会にはもってこい?。いや、そうでもないです。何せ50年もののアンティーク。

ポンプレバーは横に独立。真横に開きます。

後ろのボタンは、下がコッキングボタン。これを押してからでないとポンプしても空気が抜けます。また、これを押すことで、上のローディングボルトが飛び出して来ます。

スコープも年代相応の諏訪光学のライト、3ー7倍可変式ですが、口径20mmととても暗く細い。

コッキングボタンを押すとボルトがこのように飛び出します。手元に来た日に撃ってみると、ボルトとローディングポートの隙間から勢い良く空気漏れをして弾着は不安定。直さねばならないと思いパッキンを探すもののもう製造を終えているばかりか当のメーカーは後継者に引き継がれる時に旧作の部品を取り置かなかった為在庫もアテにならず、仕方なくパッキン自作と相成りました。全く半日掛かりの大仕事になってしまった。
ボルトはコッキングされると飛び出して来ますが、調子に乗ってパチパチ飛び出させると、ストッパのホゾのところが疲労して折れます。すると旋盤加工で一個作りせねばなりません。大変高額な修理費となります。だから、下のボタンを押す時に上のボタンを押さえ、飛び出て来るのを抑えるように扱います。

銃身に直にアリミゾを彫って照準眼鏡を固定する。リジット性は期待出来ますが上面に円周が突出している為マウントを選びます。
金婚式を済ませている程連れ添ったこのペアを剥がすのはバチアタリなので、このまま使ってみることに。

本来この溝には、マイクロメーターピープサイトが乗り、銃身先端にはリングサイトが備わっています。


年月を経て、このぐらぐらの引き金の往年の競技銃は役目を終え、猟用としての人生を送って来たようです。
ただ、これをパンターゲットといってしまうと競技銃ということになり、狩猟銃の競技会に出られなくなってしまうので、たまたまシャープとだけ刻印されているのを良いことに、新たに命名して登録しておきました。

旧き良き時代、という言葉をよく聞きます。まさにこれはそういう時代に夢を求めた人々が臨んだ品だったことが分かる、とてもよい作り込みです。空気銃が半ば玩具だった時代に、これはそれらとは完全に別の規準で追求された作品だったようです。その後空気銃種目が国際種目になってからも、これは標準機として大勢が頼ったといいます。
しかし間もなくこの出番は終ります。ドイツから大量の高性能銃が入って来たからです。兵林館のものは一回ポンプ専用の設計だった為にその後暫く練習用として使われたもののほぼ姿を消しましたが、シャープは社長の千葉氏が日本の協会設立に携わった程の人であるからこそか、この競技銃にエアチャンバーを与え、マルチアクションを可能にしていた為、こうして今でも使い道を改めて活かしていけるようになっています。しかし、その偉大な知恵も、極小さなゴムパッキンが壊れているだけで、始末に負えない程の故障となる空気銃は、その手当て手段に明るい人と出会わぬ限り、凡そは修理不能として打ち捨てられてしまったでしょう。私も、これが手許に来ることで、三十年以上振りに改めて姿を見た程です。

銃砲店に修理を頼んだら、部品がないので出来ません、とか、直せなくないが売り値より高くなる、と云われて、無駄だと判断され廃棄された名銃が数多あるのが我が国のシューティングシーンです。それは、残念と云うより、悲嘆すべきことです。

もっと、旧いものを大切に楽しむ気持を持ちたいものです。