スプリング式空気銃と射撃

愛好者にとってはあまり名誉でない謂われようのスプリング式空気銃。実は構造的な痛い欠点を、長く射手自身の多大な努力によって補っていたので、そこそこ愚痴られるのは致し方ないところですが、八割点とか九割点程度を「うろうろ」している程度の素人射手が、この所為で当たらない等と言い出すのは全く論外です。ここでいわれる「当たらない」は、六百点満点中3点乃至は5点を「漏らす」マッチシュータークラスの発する言葉です。サンデーシューターなら、この手返しの良さと猛烈な耐久性を享受しこそすれ、当たらないことを銃の所為にする等モッテノホカ。580点を撃つ迄そんな心配は無用です。

ばねの空気銃は、その構造的に、空気を圧縮して弾丸を押し出せる圧力に達するメカニズムと銃身とが、一線上に整列していなければならない仕組みです。弾丸の初速は170m/s程度と遅い為、銃の中を弾丸がまだ進んでいる時間、照準を維持し続けることが、装薬銃に比べ遥かに長時間に亘り要求されますが、装薬銃なら薬室(チャンバー)に相当する給弾口を、本来理想とされる銃身直上がアクションで占有されている為遙か前方に備えるしかなく、発射される弾丸の基礎となる部分自体が大きく動くという負荷が必然としてつきまとって来ます。

長モノは銃の重心直下に保持側の手を添えグリップを弾き手側が握ります。拳銃は引き金直上附近が重心となります。上図のPはプリチャージ銃やポンプ銃(ニューマチック式)のチャンバー位置、Sはバネ式のもののチャンバー位置ですが、本来チャンバー中心に銃の揺動が発生して欲しいところを無視して、チャンバーそのものが大きく揺れに振り回される構造なのです。
ものごとがまだ理解出来ない、何より命中を懸命に追うレベルでは、この違いは大したことではありません。しかしながらこれがほぼ纏まって来て、標的中心部に当たることが命中の基本になる段階になると、競技銃なら機械的に処理されかなり軽減されている反動を吸収してさらに安定した命中を研究するようになりますが、バネの先にある大きなピストンが動き出す反動に続いてシリンダー終端で止まる衝撃からどの位で銃口から弾丸が離れるかの微少な時間差を調理することに腐心するようになります。
このとき、重心近くにあった大きなピストンがロックのシアーから離れ前進することで銃を蹴飛ばすような反動と、二次的に起きる終端での停止の振動という二つの別々の動きが、銃の重心から遠く離れた前方で増幅されることに問題が見い出されるようになってくるのです。ここでのニューマチック式との大きな違いは、既に充分な圧力に達している発射空気を直接弾丸に与えるそれと、大気圧から圧縮が始まってピストンが終端に達する前に既に弾丸を推し始め、終端で停止した時には大分銃身内を進んでいるバネ式とではそれでなくても緊張の維持時間が違う上に、要求としては一回であって欲しい振動の発生が射出前にもう一つあることに備えていかねばならないストレスです。この二次振動は、初速が360m/sもあるような猟用のものでもまだ銃身内に弾丸があるうちに発生することが分かっているので、速度の遲い競技銃ならなおのこと影響するのですが、難しいのは銃身の遙か先のほうでそれに見舞われる上、機械振動とはいえ人が銃を持っている以上その方向も力も都度異なるものとなるので如何にそれに備えるか、或いはそれを天命とするかを選択することになっていきます。凡その場合は天命と施ねばならないこれが、着弾点を容易に1mmずらしてしまうことを容認し、直径4.5mmの弾頭の打痕の中に10点を納めていくには着弾点の誤差1mmを差引いて3.5mmの収差に留める努力をして発射の動作をすることにあります。

上図はバネ式とニューマチック式の動作部品の簡単な様子です。ばね式は部品点数は少ないものの、大きなものが派手に動く様子を見られると思いますが、下のニューマチックでは小さな部品が小さなバルブを叩いているだけです。装填口も重心にほぼ近い位置に退がって、銃の揺れはそれを中心に起きるようになります。これから判る通り、ニューマチックの一次振動はバネ式と比べたら小さく安定しており、むしろ発射される弾丸の速度が持つエネルギーから来る反動のほうが大きく、素直であり、吸収し易く操り易いであろうことは明らかです。これにより齎されるのは、弾丸の直径4.5mmの円周全てを打痕範囲として利用しうることです。
この時代のARの標的10点圏は1mmであり、確かにバネ式の不穏な反動振動をそういうものとして認めて撃っても余裕そのものは持てましたが、これを追うようにニューマチック式が次々投入され、この心安さに気付いたり、憧れた射手は呼応して持ち替えますと、1mmの10点圏は調子よく掠められていきました。やがて高得点集中の現状を見るにいたり、それを半分の0.5mmと改訂された段階から、急速に1mmの揺れを消す努力が無駄になったバネ式の銃は、射台から姿を消していくことになったのです。

現在ではそのニューマチックさえ、装填前に行なう空気圧縮の動作が「射撃の集中性を欠く」と言わなくても成績がそれを示すようになり、殆ど射台で姿を見ることは無くなり、予め圧縮した空気を供給するようにタンクを持ったプリチャージ・ニューマチックばかりとなりました。

しかし、ただ得点を求めなければならないであろう選手権者なら兎も角、レジャーで射撃を楽しむ人にとっては、他の機械力で圧縮された空気を使うだけがその遊興心を楽しませ得るかどうかという疑問はあります。
それでは装薬銃に実包を放り込んで引き金を引いているだけと、何等変わりません。折角空気銃を撃つ機会を得ているのですから、自分達が呼吸しているのと同じ場所の大気を、自分の力で弾丸に与えるプロセスを持つことで、撃つことの他に筋肉運動を楽しみ、続いて射撃し得点を楽しむという二重の満足が、充実したプレイタイムを感じることに繋がっていかないかとも思います。

強力なメインスプリングを擁するあまり、非常に丈夫に作られているバネ式の射撃銃は故障知らずです。30年も無故障で百万発以上撃っているものも珍しくありません。故障や分解整備に追い回されることなく、週に二時間、或いは月に二時間でも、無駄なく黒点圏だけを見つめる時間の為に使っていくシューティングライフは面白いと感じます。その時に、恐らく古臭いバネの空気銃は、とても頼れる相棒になるでしょう。

バネの銃でも曾ては国際試合などで590点以上を平均的に記録しています。内地のローカルでも上級選手は570点以上が当たり前でした。こんな高得点は素人射手にとって目標にもなり得ない遠い高みです。普通はのめり込んで550点を向こう十年の目標とするのがエアライフル射撃。たま〜に500点を撃てるように精進するなら、バネの銃で充分です。