Q:装飾の入った楽器に魅力を感じますが
A:
自分のすきなものとかを彫刻したりインレイしたりという楽器ですね。博物館かなにかで見ましたか。オールド楽器の図鑑等にも載っていますね。
私のもそうです。鳥が好きだ、ということで、鷲が浮き彫りにされているものでオーダー品です。
時折、新作でも何の前触れもなくこういうものが出て来ることがあります。オールド品は、バロック年代が絡んで来ると割合数多く残っていますが、それは貴族の発注で作られたものです。さて、魅力はあくまで趣味的なものに留めるべきで、これに音質特に音量を求めるのは残念乍ら余り現実的ではないと思います。
私の楽器では、浮き彫りは分厚い所で2mm以上あります。2mmといえば、バイオリンの胴の中で最も薄い所の厚みにほぼ等しく、分厚い所でも4mm位ですから、共鳴胴の一部にそれだけの錘を背負っていることになるのです。インレイの場合では、その部分の厚みをかなり広く増しますから、響板のその部分全体に一部かなり分厚い所が出来るのです。魂柱や力木の整合で、音質的には満足行くものが作れますが表情を整えるに過ぎず、音量は振動が阻害される分小さくなります。反応も決していいとは言えないでしょう。ナイロン弦等張力が小さい弦を使うと顕著に立ち上がりで弱さが現われます。目方も増えるのです。金額は、浮き彫りの場合では裏板だけでバイオリンが2本作れるくらいの額になり、つまり夥しく高価になります。インレイの場合はもっと高くなることもあります。パーフリングで模様を作っている楽器の場合は普通影響の少ない外縁部のみの装飾にとどめていますから影響はないといっていいでしょうが、こういう大きな装飾は、高くつくものの性能は今一歩になりうることは覚悟せねばなりません。私の楽器は、同じ作者が作った普通の楽器と比較すると、同じ単作手工品でありながら音量は明らかに小さく、音も少し鋭さが欠けます。私は個人的に楽器を奏でることと同じくらい眺めたり愛でたりするのが好きですから、その両方とも叶う楽器を好ましく思います。そのかわり、ホール等で演奏して人に聞かせる機会は全くと言って良い程持ち合わせていませんし、積極的に接近もしていません。そういう特別な環境に甘んじていない限り、装飾で楽器を飾り立てることは、その分だけ性能を弱めてしまうことを了解した上で探したり、頼んだりすべきものです。私が幼少の頃習っていた先生のバイオリンは、明るい飴色の裏板にパーフリングで綺麗な紋章か何かうろ覚えですがそういう細工がある、とてもきれいなもので、子供だけに小さいから、いつも下からその裏板をみて憧れたのですが、先生自身はやはり、舞台に出ないからいいけれど....と仰ってました。先生がそうなら教え子もやがてはそうなるのか、同じようなことをやっています。こういうところだけ、ですが。もどる