Q:ファインチューナーを選ぶには...

A:
 別に、何でもいいんで....

 解答としては捨て鉢ですが一番適していると思います。

 何でも良い、どうでも良い、適当で良いという文言には全て、かなり奥行があるんです。聞き方によれば相当追い出し仕向けな対応に聞こえますが、そうでもいわないと、質問者のビジョンが形になって現われて来ないという、答えでありつつも問いである言い回しです。
だから、そういわれたからといって引き下がったり、馬鹿にされたと思ってしまうのは、教養の無さを示しているだけになってしまいます。

 ビジョンとは、この場合求める人の可能性より必要性となって来ます。

 バイオリンは携行品です。それも、大きさもないし目方もないし、結局は何十万の高級品であるかも知れないし数千円の普及品であるかも知れない、結局どっちにしてもただの鞄に細工しただけのようなケースに「たたきこまれて」持ち歩かれ、場合によっては郵便等で送られてしまいます。こういう見地からすると、バイオリンはブリッジ脱落等事故は起きうる環境にあるので、ファインチューナー等、事故で被害を拡大する装具はないほうが良いといえます。

 でも、そうもいってはいられません。

 ファインチューナーという名称ですが、元々E線器といっています。バイオリンのE線は最も細く、ガット弦時代は特に強く張られる為実に寿命が短いので、鋼の弦が普及しはじめると、この調弦のし辛さは演奏前の調弦時間を長く取り、出し物潰しとなって露呈しました。そこで、E線の調弦をやり易くしようと工夫されたのがファインチューナーです。

 今では別の意味の使い方もあります。昨今は、新素材(ナイロン等)の弦が普及して、調弦安定性は昔に比べ格段に上がりました。週に一度しか調弦しないという人もいる位です。逆にそのため、調弦行為というのが「面倒」に感じられるようです。特に強めの設定のスチール弦は、糸巻きでの調弦が微妙な為、そう感じられるようです。また、伝統的なガット弦も、昔は裸でしたが、今では音量と音質の改善の為外巻きがされるようになり、芯材であるガット自体は細めにされていますので、気温と湿度の影響を大きく受けるので、四六時中調弦をする期間というのが長く、その間に高価な弦を糸倉の中で切ってしまうのを防ぎたいという要望もあります。これらに対処する為、全弦にファインチューナーをつけたいと思う人もあります。同時にそういう面倒の為、子供のコンクールの出場要件に、調弦を依頼する場合は全弦ファインチューナー設置を義務付けるケースもあります。

 ファインチューナーをE線以外につけていると「へたくそ」という見方をする人もいるようですが、そういう訳で案外そうでもないんです。

 ファインチューナーには、3つの種類があります。テールピースに埋込まれたビルトイン型、ボールエンドとループエンドの両方の端末処理に対応するレバー型、そして古風なフック型です。

ビルトイン型はこのような見かけです。材質は有名なウィットナーのものに代表されるアルミ鋳造の他、ローズウッドやエボニーの刳り貫き加工品もあります。写真はウィットナーのもので、全弦をサポートします。

レバー型はオリジナルのテールピースに取り付けるものです。用品として小売されます。

フック型は使える弦がループエンドのみとなります。よってスチールのE線をサポートするものです。ボールエンドのE線に使う場合は、少々手間ですがボールを取外して使います。

 写真で全て横からの見かけを現わしましたが、ここでこれらの欠点をお話しせねばなりません。バイオリン属の楽器のブリッジは、表板に固定されている訳ではありません。私自身、発表会で演奏中の人が、駒を倒してしまったのを何度も目撃しました。その時、ファインチューナーのレバーがネジで押し出されて突起になっていたため、表板に刺さってしまった人もいました。普段持込まれる楽器の中には、押し出されたレバーがケースの中で押し付けられて表板に傷を一杯作っているものが多くあります。このアクシデントはビルトイン型とレバー型に顕著です。軽い力で駆動出来るこの二種類は、作用点であるテコの端から支点迄が長いので、案外大きく動かすことになります。軽く動くことは大きく動かし易いことでもあり、調弦をこれらに頼り切りになる虞れもあります。普通少し低い音に糸巻きで合わせておいて、ファインチューナーをねじ込んで引っ張りあげるのですが、1音も引っ張らせるとかなり、レバーを押し下げることになります。
 それだけでなく、ご覧の通りテールピースからの出っ張りは仮令フック型のものでもそれなりにあり、もしブリッジが倒れたらと思うとぞっとしますね。裸のテールピースだけでも相当な傷を表板に与えてしまいますので、これだけ出っ張れば酷い結果になりそうです。

 恐いからといって避けてばかりも居られないこれらに痛い目を貰わない為に、バイオリンを手で運ぶなら兎も角、車に積んだり、郵便等で送る時の安全策を知っておきましょう。

見かけはキッタナイですが、取り敢えずこうしておけば、ブリッジが倒れることを相当防げます。大抵のバイオリンはブリッジが無くなると間違いなく魂柱が外れますから、こうしておくことでその両方とも守れることになります。プロテクタはスポンジでは弱過ぎます。こういうフォーム材を使うと表板に傷を与えずに済みます。頻繁に車載や郵送する場合は、こういうものを柔らかい布で包んで、普段から使うようにしてもいいでしょうね。ケースでごとごとして表板を傷つけないようにテールピースの下にも敷物をしましょう。

自転車でレッスンにいくお子さんがよくブリッジを倒しているようです。カゴや荷台に載せず背負っていたとしても、コロンじゃったら先ずやります。親御さんは別に気にしていないのか、倒れたブリッジと魂柱を立て直してあげるだけでいいようですが、我々は一旦外れたこれらの為に失われた音像を求めたくも思うものの、そう直ぐには良い感じに出来ないのでじれったいものです。

 横道にオオキク逸らせて結局ナンデモイイにするつもりはありませんから御安心を。

 先に特徴と危険性を知って頂いた所で本題です。

 通常新品のデフォルトパーツとしてはレバー型のE線器を使いますが、これはその後の利便性の為です。安いからではありません。これらは、大体どんなものでも似たような値段です。レバー型は、軽く動かせるし、ボールエンド弦もループエンド弦も使えるので結構なのです。全弦サポートにする場合は、後付けならレバー型の他は有り得ませんが、本当は少し手間ですが全部弦を降ろしてビルトイン型に変えることをお薦めしたいところです。
 ビルトイン型をつけていると何か素人臭いようですが、プロのソリストやスタジオプロも大勢この型を使っています。それは、響きを作る為です。バイオリンの先生に楽器を頼んで買ったらビルトイン型のテールピースに替えられて納まった人にも会いますが、これはやはり、響きを重んじつつもレッスン時の調弦時間を短縮する為と考えるべきです。

 弦の振動は、ブリッジからナット迄の間で作られるばかりではありません。バイオリン程度では、それを期待するには弦が短過ぎ、また軽すぎるのです。ブリッジの上でより大きく弦を暴れさせるには、張力を適当に保てる範囲で充分長い緒留め長さ(ブリッジで受けられた後の余る弦の長さ)がほしいのです。レバー型のファインチューナーを着けると、弦がソノ分短くなりますので、響きはつんとした感じにならざるを得ませんが、ビルトイン型ならオリジナルのテールピースのものと変わらない緒留め長さを確保出来ます。この余り分は、フルサイズのバイオリンを相手にした場合、普通最低47mm位は欲しく、これより詰めてしまうと弦毎の音色の癖が色濃く出て来てしまいます。どの弦でも楽器でもこれだけ緒留め迄に長さがあればいいという訳でもなく、ものによってはもっと長くしなければ渡りに癖のあるセットが出来上がりますが、経験的に大体最低コノくらい離せば穏やかだという寸法です。普通の長さのテールピースにレバー型を、必要とされたからとずらりと並べてしまうと、つんつんきんきんした硬い感じになりやすいのです。製品として元からレバー型を並べる積もりの楽器はテールピースを短く作ってチューナーの分の長さを確保していますが、普通のテールピースでは短くなってしまいがちです。また、緒留め長さがない楽器は、音量も小さくなりがちのようです。
E線に使う場合は、元々弦が軽いし共鳴も得易いというところから短くなることは余り気にされませんが、やはり音量を求める人はフック型を試す例が多くなります。

そういう訳で、なんでもいいけどそうはいかないファインチューナーです。
取付には加工が必要なことも多々あります。テールピースの弦穴からブリッジ側エンド迄の長さがあるものにつける場合はトラベルがなくなる場合があるので器具に合わせて削る加工です。フック型も、フックの稼働長を確保する為、大抵は弦の溝を彫り進まなければなりません。よって全弦レバー型でカバーとなると、弦を降ろしてイチから出直しの調律付きの作業。割と大工事ですね。
ビルトイン型は、元々一度弦を皆降ろして改めて調律する必要があります。
これらから、結局取付にはショップ依頼を推奨せざるを得ないのが一般的です。

今どき、シリーズもので定価10万をいう楽器から上は、「結構良い線」いくものです。単なる教材と括り捨てるのは勿体無いもので、充分生涯楽しめるお道具です。
この価格帯のバイオリンの多くに、ビルトインテールピースが元から設定されているものを結構見ます。それは何も、部品が安いからではないのです。確かにテールピースそのものでも音色は変わりますが、そんな細かいことより額面対効果の意味で企画すると、後で必要になって載せ替えるのに調律迄必要になって楽器代程掛かる結果になるよりは、最初から載せておいて、後は売る段になってショップで調律をサービスしてくれればいいかな〜と、後先のことをちゃんと織込んでのお品作りなのです。メーカーも適当にやっている訳ではありません。上級器は、もう調弦のこと等クリアしているであろう人向けに楽器作りをしますので、気合いは音色のみに注ぎ込まれて利便性は考慮されません。

簡単なようでそうでもないので、しょうがないからヤッパリ何でも良いといっとくか。

先ず御相談下さい。御事情に合わせ検討し、作業お見積り含めてお返事します。

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