Q:バイオリンのケースには、弓を架ける止め具が幾つも付いています。
  もしかして、弓は沢山持って居ないといけないのでしょうか。

A:
 ケースは、一応、脅迫している訳ではないことを先ず述べます。
昔風の、楽器型をしたケース(シェイプ型というのです)には、普通2つの座があります。オブロングという、角形のケースには4つか6つあります。
共に理由があるのです。

 弓は、毛が張られていますが、毛は湿度計にも使われる程湿度による伸縮が激しいものです。材木も弓程細長く取ると、幾ら塗装はしてあるとはいえ季節を跨いで同じ安定性を保てるとはなかなか申せません。昔は同じ作者の同じような弓を、季節を変えて一本づつ求めておくとよいと言われたものです。そのため、日本辺りの例では、冬場のカラカラの時期に買ったものと、夏場のべたべたの時期に買ったものを一個づつ、座に架けておいて使い分ける、という寸法です。シェイプ型のケースを使う人の多くはレッスン生ですから、それも考えの一つです。オブロングケースの多数の座の意味は、遠く演奏旅行に出るような人に向けられた更に奥まったもので、旅先のホールの空調のこと迄想定して弓を求め、調整してそれだけ多く用意するという意味です。

 でも意味されたからといって実行することはないのですが、実際に弾いていると、少し前迄良く鳴っていたのに、このところ全然響かないなという感じを受けることがあるでしょう。これは大抵、弓が湿度や気温の変化で響かなくなった、楽器の弦を効果的に擦れなくなったことから起きる現象で、気の所為ではないのです。そうなったら、一時的には毛を替えると改善しますが、それも一時的です。毛が馴染んでしまえばまた始まります。その時に発表会とかがあると大層不安にもなります。
 弓を幾つか持つことは、各々の弓が各々違う癖を持っているのを効果的に使い分ける為だと考えて下さい。

 しかし、余り沢山になって、壷に突っ込んで仕舞っておかねばならなくなるというのは一寸考えものです。幾つ弓を持っても、その一つ一つを弾き込んで癖を知り、特徴として利用するだけの練習量も合わせて必要になるからです。

 元々、フルサイズのバイオリンのことを言えば、弦が弓の重さそのものを受け止められる程強い張りを与えられている訳ではありません。所謂ヘビーテンションの弦でも、弓をドカッと乗せて弾ける程の張力ではないのです。ビオラより大きな楽器だと、ドカッとやっても跳ね返されてしまうので弓が幾ら重くても迅速に動かせる重量では元々足りないのですが、バイオリンはそこが実に微妙で、腕の重さで弾く、という、つまり弓を弦に対してはゼロ荷重になることを起点とし、スピードや、力の与え具合で楽器と弓が両方鳴り出さなければならんというもんで、結構ムツカシイのです。
その難しさが常に、気候や、屋外か屋内か、空調の度合い等に晒されている訳です。

 奏法でどうにも出来なくて悩んだら、弓を買ってみるのは悪くないかも知れません。

 勿論気休めと言う意味もありますが、あながちそうともいえません。気休めというのは言葉の通り、精神的な緊張を和らげることです。大きな演奏会を前にしてびびってしまっている気持を、弓を買うという、目標に直撃弾を浴びせる直接的なショッピング行為で和ませることは、心理面で有効だと思います。楽器そのものを買い替えると声自体が変わってしまいますが、弓なら、先程の気候的な問題の解決にも繋がりますから結構効果的な薬になります。それを何度か繰返すうちに、何時でも、どれかが具合よく使えるようになるでしょう。それで多分ヒトソロイになった可能性があるのです。

 それが、ケースの弓の座の数だと思って頂ければ良いでしょう。それ以上持っても使い切れないでしょう。
そういう、意味だったのです。単純に、弓をもっと買えと言っている訳ではないのです。

 弓をケースの座に架けて運ぶ時は、楽器の上にカバーをして下さい。弓が座から外れると楽器も弓も傷付きます。ブランケットがついているケースをお使いなら通常は必ずそれを用いて下さい。ないか、またはシェイプ型のブランケットでずれる虞れがある場合は、タオルを一枚楽器の上に掛けてケースを閉じて下さい。ケースにいろいろと他のモノを入れる人は、楽器を入れる袋をつくって、楽器をそれに入れて全体から防護するのも手です。傷だらけの楽器を目にすることが多いのですが、傷の原因が大抵弓や他のアクセサリが楽器に当たっていることです。塗装の修理は結構費用が掛かりますので、成る可く出費を減らすことと、楽器の寿命を延ばす為にも実行して下さい。

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