Q:型番上位なのに安くて、ボロボロなのに値が付くってどういうこと?
A:
型番が上位の機種なら、一連の中で必ずいいもの、という訳でもないのです。
レッスンモデルという型番が与えられている楽器でも、それが生まれた時代背景や職場環境によって良い場合もあれば下げて見ざるを得ぬこともあります。上位型番のものであっても全く同じです。
楽器は工業製品と思われがちな程そこここで商われ、その方法手段も様々なのでこういう誤解は仕方ないと思いますが、本来は工芸品なのです。管楽器のほうで、ある時突然音色が目立って悪い方に傾いたと言われたので、よく調べてみたら材料も器材も問題なく誰も手を抜いていないとなり、愈々困っていたら、調律の人が酷い蓄膿症で入院するというので原因が発覚したという例がある程です。弦楽器は幸い一人で全てを完結出来ますが、本当に一人で全てをやっていると、ちょっとした疾病や怪我で楽器の風情ががらりと変わってしまいます。分業したとしても、余りに高度化して生産性を追い求めると、本来そこに不適当な人が配置されたりして、どこかで充分な完成度に至らないまま製品化された時期があったりしてもおかしくないのです。組織化すると需給の必務も伴いますから、今はつくれないからやすみます...とゲージュツカのようなこともいっていられませんし、競合他者の製品ラインナップに見合った風情のモノを用意する必要も、業態から見れば有り得ます。
また、楽器のことで言うなら、本来は5万円か、10万円程度の価格差で、それほど多くの作り込みの違いが現れるものではありません。30万円かそこら違って来て漸くその違いが聴かれるものです。聴くというもので見るのとは違います。そう、その程度では見た目の違いが精々だったりするものなのです。長年世にあり多くの人の手を渡り歩いたオールド・モダンでもですが、ことレッスングレードの楽器でよくあるのが、始めた頃に買って、長く放っといてあちこち剥がれて塗りもヒビだらけのものと、自信が出たからと買い替えたイイのを合わせて持込まれたのに、古い方しかおつき合い出来なかったというのは結構ザラなことです。店には不必要に在庫があっても、如何せん保守が伴うものですので、面倒が見切れなくなってしまいますし、出合い頭に「これは育たない」と分かるものを仕入れても、それに傾ける時間と努力は店の人間の生命の一部なので、無尽蔵とは言えませんから、本当の意味で無駄になるので、買わせて頂けなくなってしまうというものです。
バイオリン属の弦楽器はそもそも寿命を何かと照合したり周囲の風情を見たりして決められないので、他の器目と比べて「引導を渡す」のが難しいのです。店として、今検証するなら、恐らく情熱か必要性か、どちらが重くその楽器に作用し生まれたかなのだろうと感じるところです。タダでさえ貧しい時代に、材料も自由が利かないのに、楽器で身をたてる為に必死で作られた楽器と、年を経るうちいろいろ落ち着いて安定し、求められるが侭に漫然と用立てられ供給された楽器との違い。見かけは勿論なのですが、型番程度では全く当てにしようがありません。
だからといって、何処の何時頃の何番辺りは要らないとも言えません。後に手が入っていて芽が出ていたり、所謂大当たりだったりすることもありますし、以前から馴染みがいい年代・メーカー・型番のものでも、御値段が出せないこともあります。そういう個体差があるので、当店では真面目に全ての入店案件に向き合います。しかしながら、こちらの提示と合わない、或いはそもそも当店では頂きかねる等で、おつき合い出来なくなるお品もありますので、予め御了承下さい。弦楽器の場合、元々レッスンレベルの楽器の買取はしない趣旨のお店も多いのですが、5万円で売る楽器を、よしんばただで引取ったとしても、売る為に5万円の働きをするのと、同じ作業で20万円頂ける楽器の出入りが多い業界でもあり、命を削ってお金にするなら、成る可く(一般論的に)いい楽器に仕事を載せたいと考えるのも職人としては納得出来ます。快く思えないこともあるでしょうが、この辺りは個人的な芸術論でもあるので、ご理解の程お願い申し上げます。