Q:あのヒトのと同じ楽器な、筈なんですが...
A:
完全にオートメーションでできる楽器って、実は見たことがないのです。無理矢理それにかなり近いナアと思ったのは、学校教育用教材のリコーダーがそれっぽい感じでした。それでも、ベルトコンベアでダラダラ流してゾロゾロと出来上がるという代物ではありませんでした。どんなに完璧な設計をしても、材料の木材が立木の状態でいう別の個体であるとか、金物の素材のメーカーが変わるとか、つまりそういう根源的違いさえ音の違いになってしまうものなのです。勿論、「製作者の心情」により音が変わることもありますが、大方の楽器は完成迄かなり日数が掛かりますから、そうそう長期間ダルイ気持の侭作業を続けるヒトは案外居ません。しかし、全ての製作者がイズレ元気になるとも言い切れませんから、そういう影響も避けられません。
他にもあります。
バイオリン等弦楽器の場合、早くても3ヶ月近い工程が必要なので、小さなエラーが製品を左右することは案外ありません。但し素材的な違いは一切払拭出来ず、個体毎に多少音色が違うとか癖が違うのは止むを得ません。管楽器や打楽器はそれに比べると格段に早く出来ますが多くの人の手を必要としますからある時点迄は同じようなものが出来ますが、仕上の段階、格別調律の段階では極特定の少人数の手に委ねられる為、その時の気分やら体調、勿論その人の癖での違いが生じて来ます。
そういう訳で、楽器とは、全く同じものを誰でも持てるというモノでは元々有り得ないのです。
その対策として、「選定」という手法をとられる場合がありますが、これも人間が関与している以上完璧ではありません。大体において選定した人は買う人ではない訳だから、結局は他人がイイといってくれたという程度でしかない訳です。選に洩れた楽器だからワルイということもない、というものです。
同じことは、お友達やお知り合いが使っている感じと違うと感じることにも言えます。弦楽器なら、使っている弦が違うとかいう物質的な原因の他、セッティングそのものが違う可能性があります。管楽器は、身体そのものが楽器の一部として機能する為、他人と自分では同じようにいかないのは当たり前です。
同じメーカー、同じモデルナンバーの楽器でも、その個体、奏でる人各々の違いが出るのは当然です。人の声がひとりひとり、違うように。その違いもまたお楽しみです。
但し、それは「ちゃんとした音が出せて」の話ですから間違いのないようにお願いします。潰れた、或いは沈んだ感じの弱い通らない音と、明るく元気のいい張りのある通る音とでは比較になりません。楽器に素敵な音をあげられるよう、ガンバッテ練習ですね。
そうすれば、違いなんて気にならないどころか、個性として自信を持てるようになります。ちゃんと整備され、調整された楽器なら、善し悪しやら高い安いより先んじるべきは気持です。
余談ですが、他の何でもそうです。
同僚と同じクルマを買ったがその人と同じようには操れない、のには訳があります。
それは、彼とあなたが違うから。単にそれだけです。
そこで悔しいからといって、上級グレードとかで対抗したってしょうがない何か、人的な魅力をあなた自身が追っているのだと考えましょう。
そういうヒトとは、お友達になりましょう。お互い何かを学べるでしょう。
同じものを持ってても、同じ人にはなりません。