Q:楽器の湿気対策のお薦めの方法は...
 楽器は湿気に弱いと聞きます。どんな場所で使うのがいいのでしょうか。また、梅雨時や冬はどうすればいいのでしょうか。

A:

 当店はバイオリン屋が主体ということで、先ずバイオリンのお話ですが、兎に角、湿気は大敵です。しかし、過度の乾燥も歓迎出来ません。バンドサプライもやってますから管楽器屋の一面もありますけれど、管楽器は、息を吹込んで音を出すものですから、乾季より雨季の方がまだ楽器は安定します。しかし、やはり湿度が高いと鳴りが思わしくありませんね。鍵盤楽器はメカが大抵木造ですから、湿度が高い期間が長いと鍵盤の動作が重たくなったりします。やはり、雨季は余り良い音とはいえません。

 バイオリンはその造り自体はギターと似ています。しかし、ギターはその後二百年近く経て製品化し今に至った経緯があり、バイオリンよりずっと製品安定度が上です。バイオリン属の楽器は、薄い側板の両端に大きな表裏共鳴板がハリツケラレテイルダケという余りに簡単な造りで、元々強度は考えられていません。板の端面に極僅かな糊がつけられているだけの工法ですから、その僅かな糊を傷めるだけの湿気に被われれば、たちまち分解してしまいます。しかし御安心を。f字孔というのは元々、空気の流通性が宜しくないので、これで案外密閉されているもんなのです。水でも中に注ぎ込まない限り目の前で崩壊することはありません。

 でも、湿度の影響はじわじわと、共鳴胴の内側ばかりか、構造全てに浸透していきます。ブリッジが反る、指板の反りが変わる、ペグが滑る等、演奏性に関わる問題が発生し易くなるのは高湿度環境が長期に亘る梅雨時に始まり、夏中続くものです。ガットの弦は伸び伸びになってしまうし、弓毛もまた伸び、フロッグが下がり切って弓のバランスが狂い扱い辛くなります。スチールの弦は錆びやすくなり、指の滑りが悪くなるでしょう。

 ハープのように弦の数が多い楽器は、乾湿の影響を思い切り受けます。沢山の弦の多くにガットを使っている場合は、その変化の為に「楽器の形が変わる虞れも」あります。ハープの寿命が短い原因は主にこの湿度変化であるともいわれるほど影響が大きいのです。

 金管楽器は高湿度期によく抜差し管の膠着を起こします。楽器が乾かない為、呼気に含まれる粘成分がねばりついてしまって抜けなくなります。これはサビより始末が悪く、店にての修理時にも気を使います。また、元々金物ですから、あちこち錆びたり腐ったりというのが加速する時期でもあります。

 木造の木管楽器は、全体的に湿気ることで比較的安定性は高くなるのですが、やはり乾くべきところが乾かない為に、ジョイントコルクがきつくなる、キイシステムのシャフトが錆びて動き辛くなる、タンポというフタのパッキンがねばついて貼付く等のトラブルが発生します。金属製の楽器の本体にも、サビやラッカー切れが発生し易くなりますが、やはり乾かない為に誘発される現象です。

 打楽器は、木造のものは大体塗装部分が少ない為鳴りが悪くなります。金属製のものはそこら中が錆びます。タイコの皮(ヘッド)に皮革を使っている場合等は、べろべろに伸び切り、フープを張ると破れてしまったりすることがあります。雨季は打楽器には致命的な時期です。でもやはり過度に乾くと、あれやこれや割れたり裂けたりとこれまた大変です。

 楽器はどうも、人間が気持良い環境が好きなようです。でも人間は、気持良い時ばかりに「仕事」をするようには出来ていません。音楽が生活に直接関与している人はそれ程多くないのですが、やりたい時にそれこそ気持よく楽器がついて来てくれないのは気に入らないのですが、楽器には人間のような柔軟性や受容性はありません。そこで楽器をいつも気持良くしてあげる必要が出て来るのです。

 小型の楽器は、使わない時は極短時間であってもケ−スに仕舞うようにしましょう。高湿度の時は乾燥剤をケースに入れておき、逆に乾燥時は加湿する為に、フィルムケースに孔を開けたものに湿らせたスポンジを入れて、ケースに入れておくといいでしょう。何れも度を越すと逆効果ですから観察を怠らないようにしましょう。
 屋内で空調する場合は、ピアノ等移動を伴わないものは兎も角、持出す必要性があるものに関しては、除湿機等で温度を下げ過ぎないように湿気を効率良く取り去るように心掛けましょう。温度を下げてしまうと、持出そうと外気に晒すといろいろな問題が起こります。温度差は湿度差より過激に楽器に影響を傷めます。携行する楽器のケースは、温度を下げることは出来ませんが、何れも炎天下等、局部的に楽器が高温となる環境での使用には、日除けを設ける等の防御を施す必要はありますね。

 こうして楽器が湿らないようにしておくと、比較的気持よく、使いたい時に使える状況に近付きます。

 楽器を壊すのは湿度より温度と書きました。楽器はとても硬い木を、極限迄性能を追い求めて加工されて出来ています。音を出せるということは、強度等その他の性能は殆ど無くなる程に削り落とされていることになります。楽器とはそういう道具なのです。
 寒い時に、暖かくした室内に楽器を持込んで演奏を始めたり、逆に暑い時に冷やした部屋やホールで演奏しようと楽器をいきなり取出したりすると、バイオリンやハープなら塗装や表板を割ったり、木造の管楽器では管を割ってしまったりします。特に目の粗い檜系や、グラナディラのように重く柔軟性のない木材で出来たものは、とても容易に割れます。金管楽器を冷房の効いた車内等から急に暑い外に持出して演奏すると、結露でたちまち管内がジャブジャブになって音程等に悪影響が出ます。
 楽器は、いきなり現場で取出さず、段階的な温度差を与えて馴染ませていくようにしましょう。

 こういう取扱上の注意は、楽器の価格に関係なく必要なことです。楽器を使う人は、皆気をつけて、いたわって楽器に接して下さい。楽器を壊してしまっては、折角の修練も水の泡ですので。

ぴよよ楽器