Q:ビオラのサイズはどう選べば良いでしょうか。

A:
 近頃、ビオラへの御興味を多数頂くようになっております。特にお子様が合奏に参加する上でビオラへの人事を受ける例が増え、親御さんの悩みの種になって来ているようなのです。しかしかがらこれは、面倒な御質問の代表格です。正直申し上げて、緒論横行しているのでお答えのしようがありませんが、敢えていうなら、他論はどうあれうちではこう、という感じになりますので予め御容赦下さい。少し前なら、学校ブラバンの流れで管楽器中心のアンサンブルだったり、ロックやポップス系合奏活動ばかり目立っていたものが、このところ弦楽器のアンサンブルも定着してきて、とみに増えたQでもあり、一々御対応への苦慮、労力が過剰となり、「取り敢えず手が届くものを」と、値段のことか長さのことか分かりかねる返答をせざるを得ない状況になって来た為、こんな論理でも、一応あるのだ、という程度で結構ですから記憶に留めて頂きつつ、御参考と為されればと思います。


バイオリンのフルサイズは15"と13"のほぼ中程です

 ビオラのサイズ表記自体にもいろいろありまして、分数もあります(弦メーカーの多くは分数表記します)ればインチ表示もあり、またミリ表示やセンチメーターというのもあります。メーカーが好き勝手に表わしているこれらの原因は、決まった表示というのが未だ合意を得る提示に至っていないからなのです。あくまで楽器業界のこと、合意といいましても世界的にこうしましょうという規格めいたものではなく、利便性を皆で共用した方がいいと、各々の製造者が感じるかどうかという問題です。また、同業の立場でメーカーを養護するなら、バイオリンの専門メーカーとはいっても、余程気合いが入っていない限り、例えば1/4インチ大体6ミリ刻みでビオラを用意する等、考えるだけでもおぞましいことなので、幾つかの標準的なサイズを押し付けたくなっても無茶とはいえません。バイオリン、チェロ、コントラバスと揃っていてもビオラがないメーカーもあり、乃ち逃げているとなるのですが、逃げざるを得ない原因が、遠くも近くもここにある、それがビオラなのです。

 そもそも、ビオラは昔から、最初からこれに取り組む例こそ稀で、普通はある程度バイオリンで進んで来た人の中から、有志か、或いは請われ、またはこれ専ら命ぜられて持つ楽器という位置付けです。素人アンサンブルなら、「お金がある人は」ビオラを「買ってこい」となるものでもあるし、多くの素人バイオリン弾きにしてみると、ビオラも持ってることは、ステイタスにもなり得ます。だからといって、バイオリンが弾けるからビオラも直ぐ弾けるというものではなく、別種の音楽性が要るのですが、取り敢えずバイオリン弾きなら(譜面のひょうたん印は別にして)ビオラに親しみ易かろうと、その中からビオラ弾きが選ばれるのは一種のプロトコルですし、最近では、初めて音楽に接してバンドに入ろうとすると、バイオリンとかは一杯だからビオラをヤッテ頂戴と人事され、初めての楽器がビオラになる、という決着も多く聞きます。元々、永いあいだ、ビオラ始めの段階でどの程度の楽器が持てるかというのが微妙な問題として常にぶら下がっていて今尚決着をつけられないところに、活動の普及と完成度の高さが後押しして一層ビオラのことを真面目に考えねばならなくなっているようです。

 バイオリンなら、1/8が小さくなって来たけれどもまだイケルからと延ばしているうち1/4を飛ばして1/2に持ち替えても大して気にならないのに、ビオラは低音部という認識から、大きな楽器という印象が表れ、そのゼロポジションでナントカ運指出来る目一杯のサイズを求めることが当然かと思われるようになり、実に沢山、それこそミリ刻みのサイズ割りが必要になってしまったので、便利な分数を考える暇がなかったからと考えるのが適当です。
 バイオリンは、小さいということに加え、普及と教育課程上の問題もあるので、はやくから皆が合意(むしろ納得かも)したというだけのことなんですが、それも20世紀に入ってからのことで、その前はというと、普通は小型のバイオリンを持つこと等考えられず、極一部の裕福層が、財力を後ろ楯にして気合い込み、使い易い小型のものを発注した例が見られた程度ですが、19世紀も半ばになると、問屋商人への発注の経歴から売れ筋或いは専らこの位でいいのではという幾つかの寸法が纏まり、製作者としてもその寸法で鳴らすよう作り慣れる必要からの小型楽器の製造への努力が、結果売上という形で活動を後押ししたことは否めません。

 ところで、ビオラの理想的なサイズなのですが、簡単にいうとバイオリンの3/2ということになりまして、本来なら胴の長さがバイオリンの350mmに対し535mmということになります。スケール(弦長)もそれに応じて伸びますから、バイオリンの標準327mmに対して490mmとなります。
 なにをいいたいかと申しますと、理想サイズのビオラは、首に挟んでは演奏出来ず、精々立てて膝で挟む位しか方法を求めようがないということですが、そうなっていないのは、先程の、バイオリン弾きからビオラ弾きを擁立した方が手っ取り早そうな位、チェロ弾きよりバイオリン弾きが多かったからに他ならず、楽器を立てないで済むようにしてきたと思う方がよりそれっぽいでしょう。
 なぜそうなっちゃったのという話になるとちょっと展開しますが敢て端折っていうなら、産業構造をその輸送という面からひもとくと、今道路を走っている12tトラックの50立方メートルの輸送力が幾ら魅力でも30年程前迄はそれを受け入れること自体が困難な受発拠点が殆どだったことを遡らせれば、楽器商人が仕入を建てるのに仕立てた馬車にバイオリンなら百個積めるけれどもチェロでは十個しか積めないので、1便で得られる商機が減るからそれだけ大きく稼がねばならないが、チェロは大きい分高い為、買手を見つけ辛かろうと考えてバイオリン作りを製造者に奨励した所為だ、と見れば、より納得せざるを得ぬというもんで、ビオラはバイオリンの兄貴分にしなさいと、流通の為命ぜられたと思われても無理はありませんし、私自身がその時代その立場に居てもそう言います。無論音楽の為ではなく商売の為にです!。但し専ら音楽に触れはじめる人は、音楽というリソースを何れかから買い求めている為、先ず始めに商売ありき、それから音楽云々ありき、と考えることはむしろ正統と思います。

 それではどうしたらビオラに出来るかという妥協というかそういう一面に話が移って来ます。弦の製造技術や、胴の製造または調整技術をどんどん研鑽して適合させるのですが、その結果今一番小さいビオラの胴長は、12インチ乃ち304mmと、1/2のバイオリンより少し大きい寸法となってます。では4/4バイオリンのチューニングを緩めればいいじゃないかと思うとそう簡単なものではなく、低音をふくよかに鳴らす工夫が必要で、13インチビオラにバイオリンの弦を張ったところで結構野太い音の楽器になってしまうものです。つまり、小さくてもビオラといって売られるべき商品はやっぱりビオラの音がするんです。
 今作られる最大のビオラは17.5インチ445mmの胴長ですが、理想とするサイズには遠く及びません。しかしこれより大きくなると、チェロのちいさいのみたいになってしまうのです。こうして随分無理があっても、不可能と分かっていてでっち上げても仕方ない、そういうものだというところで、そのまま何百年もうろついていた訳です。

 さらに、現在は、バイオリンに関していうなら、ストラドとかガルネリ、デルジス、スタイナーと、ある程度モデルが決まって来ていますが、ビオラには完成された形というものがまだないのです。そのため製作者は各々に意匠を凝らし、ビオラの音を追求し続けています。だから、今時は小さくてもビオラの音が得られるはずなのですが、探究の結果が、精々やっても12インチ、それより小さいのは無意味、と結果だけはしっかり出ています。しっかりと申しますのは、昔私自身が楽器メーカーに対して、バイオリンは1/32なんてのが、意味があろうとなかろうと実在してるのだから、無理は承知でやんなよと言った返事が、じゃあそういう幼児の合奏でビオラが欲しければ、チューニングを変えればいいじゃないかというものだったので、そのあたりはそういうアワセ方が普通で理想なのだなと納得するしかなかったことからも窺えるからです。余談ですがコントラバスの幼児用をと申せば、案じては居たものの、チェロを改造しろ、と言われ、くらくらしてしまいました。だって、本体の改造自体は大して手間ではないですが、音を得る為にテスト用の弦を、銘柄サイズを問わず多種類を大量に用意しなければならないからです。

 しかしながら、多くの人は、誰に聞いたのか標準と言われるサイズにこだわり過ぎて、不可能一歩手前の大きいビオラを持とうとするため、楽器のつくりの良さとか響きといった、製作者が苦労を重ねて得た楽器本来の要素を忘れてしまう、そう言い切れない迄も、大きすぎる楽器でないと何か満足が詰らない、という結果に陥っています。また、サイズが同じであっても形状によって弾き易さはかなり異なるものですので、演奏性も重要な要素なのだと原点に立ち返ってみて頂きたいと思います。もし、大きくても鳴らない、或いは鳴らしたくても大きすぎるビオラと、小さくても扱い易くて良く鳴るビオラがあった場合どちらを選びましょうかとなりますと、間違いなく、小さい方がいいのです。分数のバイオリンと同じことです。

 だからサイズにあまりこだわらず、良いつくりの、鳴る楽器、特に弾き易い楽器に興味をもつようにし、また、音質や音量についてはA線側を重視するかC線側を重視するか割り切って、新しいか旧いかとか国籍とかには拘らないで選ぶようにしましょう。なにをして弾き易いかというと、ビオラは低音向けに弦が太くなりますから、バイオリンのように指板に指の居心地が良い程座り込ませられない為、いつも弦がコロコロして、指の先できっちり押さえないとポロリこぼれて音が潰れてしまったりしますから、安定性、バランスというよりスタビリティの方面が必要になって来るし、分厚く幅広く重くなるので、左手の保持の負担が軽減されるよう身体に近い方に重心が寄って出来ているなどは、バイオリンよりも注意してみるべき部分であり、それらが旨く仕上がっていると、弾き易く感じて当然だからです。

 結局は、バイオリンも同じことが言えることばかりなのですが、ビオラに関しては、規準が余りに曖昧なので、特別に思いきりが必要で、それはサイズに関して顕著に現われるべきなのです。

 これでは何の参考にもならないと思われるのも難なので、非常に手前勝手な意見を申し上げれば、大体1/2バイオリンを持てれば13インチビオラは使えます。そのまま大きくなるに従って割高なビオラも買い替えるのかという懸念は、取り敢えず4/4バイオリンになってもビオラはそのまま使って問題はないと思っていていいでしょう。やがてビオラ専門になったり、持ち替えでも大編成の合奏等で音量の部分で不満になったら、バイオリンのサイズの取り方のように、手を握らず左腕を真直ぐ真横に延ばして、胸骨から手のひらの真ん中迄を測ってみて70cm以上程度なら、15インチのビオラがお薦めかな、と申し上げておきます。16インチ以上になりますと、やはりバイオリンとくらべると相当スケールも延びて、重量も出て来ますから、ちゃんとビオラらしい訓練で下地を作ってからの方が無難ではないでしょうか。
 音質的な問題は、好き嫌いがあったりしますから複雑になり過ぎ、確固たる論理はないところですが、演奏性という部分でみると、こう考えておくほうが案外無理なく持ち替えられるのではないかというところです。

 しかしながら、日本でビオラというと大体胴長400mm前後、乃ち16インチと標準的に用意されるケースが多く、サイズ合わせは工房か、そういう受注に対応している弦楽器店からの暢達に限られて来ます。よく見かけるからそれが標準と勘違いして、身体が小さいからビオラは弾けないと諦めるより、専門の店へ相談すると、案外難なく片付きます。
 ビオラのショルダーレストに関しては、サイズに関わりなく微妙に合う合わないが出て来ますので御相談頂く方が安心です。
 反対に、ビオラのケースに関しては、ケースメーカーの方がこのアバウトさに慣れている部分があり、ビオラケースと謳っている大抵の製品は自在にサイズが合わせられるよう工夫をしてありますので、バイオリンの分数程の悩ましさはむしろありません。但し安価なものに関しては、精々25mmの長短許容範囲がある程度のサイズ設定で幾点かに別れますから、御予算次第ですが失敗しない為には先ず御相談頂く方が安全です。

 ビオラの弦に関しては、サイズに絡んで大変問題が多く残されているものですが、案外気付かれていません。本格的にビオラを研鑽している奏者なら、何となく身体で分かっているものですが、一般的にビオラ弦として売られているものの殆どは、16インチビオラの弦長に見合うものの為、17インチのものには短く、14インチのものには長くなってしまいます。単に巻き足りなくなるとか余るという問題に留まらず、弦の張りを楽器らしく維持出来るか否かに発展しますので一層注意が必要なのです。長過ぎるサイズ向けの弦を短い楽器に使うと、弛み過ぎでジャリジャリと不自然にビビります。ソレデハと、弦の強さ(ミディアムとかソフトとか)を変えてカバーしようとすると、今度は押さえる指下で弦がばたつくようなことも起こります。同時にこの長さ向けを無視乃至は知らないことから間違うと、ウルフといって、特定の音が共振で消され極端に小さくなる場所が増えます。ウルフを防ぐには特定の定義はなく、バイオリンでも起きるものの普通余り気付かれずに通り過ぎますが、ビオラの音巡りはバイオリンの速度感とは違いますから、気付くというより邪魔になる位になって来るのです。もっと音域の低いチェロやバスでは、或いはもっと顕著に感じることもあります。同時にまた、ウルフの出ない弦楽器はないのですが、出場所を減らす努力は必要なことで、弦をあわせるのはその入口です。元々、ビオラのサイズ別の弦を売り出しているメーカーは実に少なく、またそれを使えば必ず全てが解決するものでもない為、我々楽器屋の出番が愈々増すのもビオラです。

 補足ですが、ではビオラとはやっぱり伴奏専用の位置付けなのかというと、触れてみると案外そうでもないなと思う筈です。音域は上下ともバイオリンより正五度低いのですが、旋律がとても馴染み易く、ふっくらとして聞き易く、うっとりさせられると思います。好んでビオラを弾く人は、切っ掛けはどうあれ大体ビオラの音に魅せられただろうことは、弾いてみれば誰でも感じるでしょう。音の表情付けも不思議にやりやすい楽器です。バイオリンに疲れたら、骨休めにおおらかにビオラを弾いてみるのも、良い気分転換になると感じます。

 話はちょっと崩れますが、バイオリンのG線の下にビオラのC線を張って、或いはビオラのA線の上にバイオリンのE線を足して、5弦の楽器にすれば両方ともカバー出来るのではと思うのは相当なヤッツケ思想だと思います。ビオラとバイオリンの作りが違うことはいう迄もありませんが、バイオリン属というのは基本的に四弦のものです。コントラバスはヴィオール属といって、楽器の発生源が違いますのでこの際おいときますが、バイオリン属は四弦だからこそ、このグループの楽器特有の響きの特徴が得られ、それで居所が出来るよう育てられて来ているので、上だろうと下だろうと1弦足されると、響きは勿論音楽性がバイオリンやビオラのそれとは大分異なって来ます。その音域が必要な特殊な作曲をこなす、或いはそういう音域のバイオリン曲を立ち上げたい等、斬新な世界を志す場合は別として、そうして作った楽器に兼用性があるものと思う或いは思わせることは、若干それこそ、無茶があろうと考えます。でも、それも最近やられた実験ではなく、割にバイオリンの早い時期から試されていたことで、それ用の楽曲があったりすることもあり、とても興味深いし欲しいとは思います。チャンスがあれば買います。まあ、その程度で留めておく位のゆとりは必要です。こういうことは仕事と同じで、やりたいからといって必ずやれる訳ではないし、やれたとしてもそれで生計が立たなければ趣味の域を脱しません。ゆとりのためには生業の成功が必要ですから、趣味的なものごとに生業を圧迫する程のめりこんでは本末転倒の結果を齎します。生業というものはある程度カテゴライズされて既に世に認められているものごとであることを了解して容認することが、なにごとへ向かっても成功への秘訣だと思いますが、新しいことへ挑戦するゆとりのために生業を頑張って派生させることもまた必要な努力です。生業を頑張る為には常に自分を見つめ直すこと、音楽は大抵の場合趣味ですが、これまで固まって来たその世界観をしっかりとりいれて自分のものにして、新しいことを試していかないと、どっちも中途半端で投げ出しかねません。だから、何の用もないのに興味本位でビオラに手を出すこと自体が昔から憚られたのでしょう。結局その為、ビオラには標準サイズがない、という元の話に戻ってしまいますが、用があったら直ぐにでもものにせねばならないのもまたビオラの特徴で、これも、標準サイズを押し付けられない理由でもあります。小型のバイオリンを弾いていた頃のことを思い出して、またその経験がない人も小型のバイオリンの意味を考えて、ビオラも自分に合ったものを求めるようにしましょう。

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