Q:安い弓なので弓毛を替えるのはチョット
A:
しょうがないですね〜。しかし、気持は分かります。方法として「洗う」という手が有ります。
これは、どんなお品にでも、使える手なのですが、幾つか条件が有ります。その中から自分の楽器にあてはまる項目が、ヒトツでも洩れるなら実行を避けた方が良いです。
- そういう、安いお品である
- 弓毛は伸び切っておらず、ボタンの締めしろにはまだ余りが有る
- 松脂が何本か毛を束ねていたりしている
- 有機溶剤に対してアレルギー等がない
先ず、安いというのは規準が曖昧ですが、要は、洗浄にはアルコールを使いますので、弓のシャフトにつくと塗装を台無しにしてしまうからなのです。塗装は別に性能そのものを左右しませんが、もし古いものだったりすると、その修復でオリジナル性が損なわれ価値を逸損します。予めビニール等で被って保護はするのですが、それでも万全では有りませんから、高価なものとか、オールド等骨董性の高いもの、絶対の信頼を置いている等の場合は避けた方が良い、荒療治ではあります。しかし、洗った後はホントに元のような感触になりますから、気持は揺らぎます。でも、まあ、高いものを買える人は毛を替えて下さいということで御勘弁下さい。
弓毛が伸びている場合は、洗っても間もなくまた伸びて、何らかのサービス、つまり毛替えやそれに近い修復(うちでは長さを詰めてあげたりもします)をしないといけなくなるからです。これは間違いなく毛を替えたほうがいい状態です。
松脂は、何時迄も粉の侭は居てくれず、やがてくっついてニス状に固まります。要はそうなって弦の上をただ滑るだけになっているのが大方の弓の毛の寿命現象なのです。こういう場合は大抵、毛を緩めると毛が何本か束になっているのを見られるようになっていますから、その松脂をアルコールで洗い流してやろうというのがこの作業です。そうなってなければ毛を替える必要も洗う必要も別にありません。
アルコールは可燃物であり、その炎は無色です。火気厳禁、同時に強揮発性ですので、換気は充分にし、自己責任であることはいうまでもありません。
用意するものは、1リッター程度の容量の金属のボウル、無水アルコール(エタノール)コップ一杯程度、古い歯ブラシ(先が少し位ばらけたもの)、木造の櫛です。
作業に当たり、弓からポタンを抜いてフロッグを離します。その後、細長く切ったビニールや、傘を入れるような細長いビニール袋で、シャフトをほぼ全て被って、チップの上はマスキングテープでしっかり巻いて下さい。できればフロッグも、弓毛だけ出して巻いてしまいましょう。万全では有りませんが、飛沫が掛かる程度からそれらを守れます。
その後、風通しよく火の気のないところで、ボウルにアルコールをあけます。その中に、弓毛をくるくるしながら浸します。シャフトチップ側やフロッグは無理に浸さないで、歯ブラシをアルコールに漬けたものでシャバシャバと通して洗います。
こうして5分もやると松脂は溶けて流れますから、ボウルから毛を上げて、必要を感じたら軽く振って飛ばし、数分乾かしてから、櫛で梳いて毛を均し、弓とフロッグからマスクを取り除いて、シャフトに毛が触れないように注意し乍らフロッグを弓に戻します。完全に乾いたら、毛を緩めた状態でまた軽く櫛を通し、松脂を新たに打って出来上がりです。くれぐれも自己責任でお試し下さい。危なっかしい方法ですが、毛の寿命は数倍に伸びます。