銃の選び方

 手前勝手を申し上げれば、銃というものは案外子供でも使っています。弾丸といいますが何かしらを、筒の中へ詰めて、何等かの力で筒の先へ撃ち出すからくりを持つ道具を本来銃というもんです。

 火薬を使うのは発明時点からして突発性はないもので、素早くガス化する何等かがあれば、誰でも思い付くでしょう。だから発見に近い発明ですね。発明された銃器を特定するなら空気銃が妥当でしょう。それも、元々はビンのようなものに外力で空気を圧入し、それを小出しにして使っていくというもので、現在ではプリチャージタンク式空気銃といわれています。先祖帰りをしていることになり別に新しくもなんともありません。

 銃を使うことで逸早く思い付くのは射的です。的を置いといてそれに当てて倒したり壊したり、当たったところに点数を与えたりすることです。これにつかう銃は、闇雲に強力であれば良いとはいえません。射的には、競技として世界または地域で共通のルールを定めて行われていることのほか、プリンキングといって、例えば友達と会っている間の余興にするチェスのように、手持ちの銃でその場の決まりを作って的当てをして楽しむことがあります。日本語で書いているので日本のことをいえば、競技射的には、最も気楽に行える種目といえど、許可が必要な「空気銃」乃至は「空気けん銃(拳銃)」が必要ですが、プリンキングは許可者といえども出来ません。許可銃で的を撃てるのは競技や練習の為に認可された射撃場だけなのです。
 日本の銃砲火薬規制は、実は格段厳しい様子ではありません。取り敢えず誰彼なく善良な人民、つまり、定住生活でき犯意のない人なら、一部を除くスポーツ用の銃器を持ち、かつ使用する許可を受けられます。一部といいますのは、それ以外のものにはさらに用途制限や推薦要求等、自分の為ではない働きを求められるようになる為です。しかしながら、幾らでも持ってよいという訳ではありません。数や、種類を制限されることもありますし、数を持つには相応の面倒と金額が必要だからです。

 さて、いろいろ規制を受ける銃、持つには何が一番効果的でしょうか。

 射的を楽しみたいという場合、都市部に於いては競技用空気銃がベストでしょう。射撃場の数もさることながら、沢山の競技会が催されていて、身近に練習の成果を試すチャンスがあります。もっと本格的に楽しむには、ライフル射撃協会に入って、定期的に練習会や審査会に出て、装薬式の銃を使う競技や、エアピストルという空気けん銃にチャレンジする等、楽しみは拡がります。仮令そうしなくても、生涯の修練の為に競技に近付かず射的を楽しむ人も大勢居ます。競技用空気銃は、10m先の的に効果的に命中させられ、弾痕を明瞭に残す為に煮詰められていますから、そう謳われているものならどれを使っても遜色なく、経済的でもあります。しかし昨今、「かっこいいもの」がどんどん現れ、旧態然たる姿のものだと、居並ぶ他人の品が気になってメンタル的負荷となるようですが、それは何でも同じでしょう。

 私どもは銃器を使って大型獣の狩猟を、それも特定の猟場で行います。猟法は追い出しの手を借りるものです。射撃をする役割の人を「タツマ」という専門用語で呼びますが、仲間は主にそれを担当します。追い出し手は「勢子」と呼びますが、これを担うのは猟場の管理に実際に関わっている地元の熟達者です。昔はタツマは勢子を「金で雇う」ということから勢子の立場は低かったのですが、我々の世代には既に逆転して遠く、勢子は事実上の先生です。レッスン料を支払って、銃猟を教えてもらっているようなものです。
 こういう状況は各地で見られると思います。この場合、持込む猟具である銃が、余りに突飛なものでは、当然ですが「先生がた」の理解は得られませんし、教えてもらうにも流派から逸れてしまうことになり門外漢扱いとなって線引きの外に置かれてしまいます。場所により様々なやり方があるもので、偶々私どものところでは、当初といっても十年かそこらの間は、軽量の元折れ散弾銃が適当です。単銃身単発でもいいのですが、入手が不可能ですし銃身部の強度から、銃身が2本束になっている二連銃の方がいいでしょう。理由としては、狩猟そのものが一に脚力を用いる行いなので、重いものを持ち歩くと自ずと早く消耗するからです。次に、やはり荷物が小さい方が良い為、長い銃は不便なのです。自動装填式の銃は、銃身の手前に実包の長さの倍に及ぶ駆動部(アクション)があります。その為、同じ銃身の有効長の元折れ銃に比べると、随分長いものを持ち歩くことになる結果、やはり脚力を早く奪われます。そして、ライフル銃は獣には強力で良さそうなのですが、銃身が分厚く丈夫な分、やはり重さが増します。機能的には、高速で下り斜面を駆け降りる獣を弾幕で撃ち取れなくなりますから、射撃機会がその分減ってしまうのですが、それが一個人の損得で済まず、折角追い出した獣が、タツマの衆の守備範囲から逃れる結果を齎し易く、グループ全体の問題に繋がりかねないこともあり、調和の面からの推奨となって来ます。

 同時に規制面から見ると、いきなりライフル銃での銃猟が出来ないことになっていることから、皆元々ショットガンシューターだ、という経験的要件も伴います。散弾銃とライフル銃では使用法そのものが大きく違い、単にライフルは散弾より強力だでは説明がつきません。

 何でもそうかも知れませんが、こと銃を使ったことをやり始めると、あれやこれやとやりたいことが出て来て、複数の銃を持たねば立ち行かなくなるものです。そうすると、滅多に使わないものも手入れを怠れない、許可更新に関わる費用、何より使い慣れる為の練習など、目を瞑れない負荷も同時に抱き込むことになります。競技射撃もあれこれやって、狩猟もあっちこっちでやってと、手を拡げ過ぎるとどれに本気になって良いか分からないうちに歳をとってしまうし、無駄にお金も掛けてしまいます。銃そのものの耐久性の面で見れば、今出回っているものはどれでも一生ものといっていいでしょう。幾らでも自由に時間とお金を使える人でなければ、ある程度活動範囲を予め絞って、道具を準備し、それに慣れることが肝要です。特に若い間は、可能なこと自体に制約があり、狩猟は20才からしか出来ませんが、ライフル射撃は14才からその機会があれば出来ることになっているので、傍目には射撃が入口で狩猟が発展版に見えますが、実は入口自体まるで違うところにあるものですし、各々の大きな括りの中にも、別の入口を持つ多くの行いがあります。狩猟はその最たるもので、尾根が違えばもう違うというくらい、やり方には地域性もあるので、一度足を踏み入れるとおいそれと他を試せませんから、狩猟をしたいというより、何処でそれをやりたいかを決めておくことが満足への近道です。

 銃を取り巻く環境は年々気難しくなっていく傾向にあります。何か勘違いした人がそこここで事件を起こし、ことを気軽に考え過ぎたり、慣れ過ぎたりしたために起きる想像も出来ない事故が起きる度、規制する側も悩むし、世間の目は厳しくなっていくのです。幾ら昔を回顧してももうどうなるもんでもないので、厳しい中でも出来るだけ楽に続けていけるよう、取捨することも継続の節目になります。

 ものごとは、続けてナンボです。