:ライフル種目・エアライフル射撃(AR)について:

とても大勢が親しんでいる種目です。元々は1962年カイロ世界選手権大会の折に開かれたUIT総会において日本の提案で整備され、続く66年のヴィスバーデン大会から正式となった種目であり、その後精密機械技術の進歩に合わせ急速に高性能化する空気銃における一つの規準として、また広く楽しめる競技として世界のスポーツ界に貢献する種目です。オリンピックでは1984年ロス大会から正式競技になりました。
当時日本では空気銃の所持規制が始まっており、兎に角世界的にもかなり厳しい銃器規制に踏み込んだ実情に日本の競技界として少なからず焦燥を持った故の壮挙とも思われますが、恐らく間違いなくこれを外国の、特に規制の緩やかなUIT基幹指導国に任せておいたとしたらその後数十年は整備が遅れた可能性もあり、そうなると今のような射撃界は存在しなかったのではないでしょうか。
日本人のスポーツマインドには折々敬服させられます。

現在時点では屋内競技となっていることもあり、ワールドカップ/オリンピックで最も華やぐ射撃競技であり国体種目です。射距離10mにて、立射(リッシャ:公式表示ARS)60発・40発(女子とジュニア種目)、伏射(フクシャ:ARP)40発、三姿勢(AR3・立射・伏射・膝射シッシャ)各20発と、各々競技種目があり、14才〜18才(銃刀法上の特別な許可項目)はジュニア(ARJ)として養成の対象となっています。このほかローカル種目として、着座し何らかの台上に肘を着けて撃つ肘撃(チュウシャ:T・座射と呼ぶこともあり)、着座を主とする上に銃を何らかの架台に乗せて撃つ自由姿勢(フリースタイル:FS)が行われます。
練習に就いても屋内なので天候気象の影響は往来時程度で、多くの射撃場は冷暖房完備、快適至極です。中でも立射60発競技は、ライフル射撃の競技中最も多弾数を用いるか〜なり過酷な競技になります。

空気銃だといって舐めて掛かっていると大変なことになります。日本のライフル射撃種目は装薬に関しても拳銃に関しても、入口も出口もこれであり、つまりこれに始まりこれに終ります。競技用ライフル銃で、協会の推薦を受けずに18才からいきなり持てるのはエアライフルのみです。そのことを鑑み、この競技で達成する段級位審査が基になりその他種目への推薦を受けることになってますから、仮令「希望の」その他種目の推薦を取れたとしてもコレをその後ないがしろにすると、「希望」が規定する期間最低成績をクリアしなければ次の推薦に結びつかない種目(ピストル)があったりします。つまり、「昇格」してもコレを続けていなければ、もし昇格先で何かあって選手資格を失った時、帰る古巣が無くなり引退ということにもなりかねないのです。ライフル射撃競技を続けるなら、一生付き合っていくものがエアライフル射撃です。

この種目は口径4.5mmの光学照準器を使わない専用の空気銃を使用します。法的には特別な場合14才から就くことができますが、一般的には所持許可が下りる18才が目安です。勿論の話ですが、許可を受けて持つだけで始められるコトですから、体協のことなど考えないでお楽しみで精進している人もいる、ライフル射撃種目としては希有なものですので、相当出来上がってから競技会に出る人も珍しくありません。長く中にいるからと安心出来ない種目です。

使用する銃器は「射撃専用のもの」であることが強く望まれます(初速185m毎秒以下と規定されています)。寿命は決して長くありません。しかしながら、精密機械なので整備は必須でもそれさえ施せば銃身含めてほぼ半永久的に使用出来ます。機能的寿命よりも世代的寿命のことをいっているのです。銃器の性能は初速は大体170メートル毎秒程で各社同じようなもの、命中精度は10メートルで銃をマシンレストした場合何十発撃っても標的の孔はひとつのみです。つまり、銃が悪いから当たらないというお話は茶番以外の何ものでもなく、逃げ隠れは一切出来ません。

空気銃にはいろいろな種類があります。古来多く用いられてきたものは、鋼のスプリングを圧縮しておいて、それを解放することでポンプを動作させるスプリング式、予め手動のポンプで空気を溜めるポンプ式、小型の液化炭酸ガスのタンクから気化させたガスを用いる圧縮ガス式ですが、現在競技用としては、大気を予め高圧に圧縮(200気圧以上)した親タンクから、銃器に取り付ける子タンクへ空気を移して少しづつ放出して発射する予圧蓄気(プリチャージ)式オンリーになって来ています。プリチャージ式は、ポンプやスプリングという装置で銃器上の重量と場所を占有されないこと、気化が外気温によって左右される 液化圧縮ガスの欠点による不安定さがないことで実に安定性が高く銃身も長く作れていいこと尽くめのようですが、巨大な欠点としてはその高圧空気を作れる器材が大掛かりで一般には普及し得ないことで、自分で親タンクを用意して蓄気する準備をせねば、親タンクを探してうろうろせねばならず容易ではありません。親タンクと移送バルブは十万円程度で揃いますが、それを高圧空気製造所へ持込んで充気して貰うか、専用のポンプ(200万円程度)と三相電源を用意して自分で圧縮するか、はたまた、手動のポンプで長い時間を掛けて子タンクに直に充気するかせねばなりません。

結局は競技を目的としてする訳ですから、使用する銃器や装備は「なんでもいい」という訳にはいきません。先ず銃器は必要な訳ですが、これは競技の運営上の理由から「同じ機能性能のものを持った選手がずらり並ぶ」ことになりますので、選ぶなら先ず「見かけから」です。性能は競技用として設計されたものは正直云って皆同じでも、安価に始めようと見かけを後回しにすると、結局また改めて求め、面倒な手続をすることになります。専ら安価なものは、もっと銃規制が緩い乃至は射撃が普及している国や地域において教育用としてクラブ単位等で用意する備品を目的としている商品です。悪いことはいいません。長くやりたければ、一番今風のカッコイイのを買いましょう。今風は年代につれ変化します。これは一種のファッションです。高々度のメンタル面圧力は避け難い競技ですから、流行遅れを行使し続けることは心理的に非合理です。今は高校生から始めても大学を終る迄に新たな流行が来ます。一度くらい波をやりすごしてもいいでしょうが、やがてアップデートは必須となりますので、自分が買ったあと新型が出て来たらぼちぼち銃購買に向け用意しましょう。次々とカッコイイ銃を持って射台に並ぶ若者を、イイトシをしてから横目で見るのは恥ずかしいことです。散弾銃のように天井知らずなら兎も角、このカテゴリの銃器代価は上限がすぐそこなのですから、稼いでいるクセに無収入の学生に追い付けないようでは困ります。特にこの競技には、幼年ビーム射手から昇格した14才選手がわんさか(昨今そうでもないが)いますので、30才はもう老年射手です。マスターエイジシューターはそれなりに手本を示せねば意味そのものが失われます。

競技銃の価格はニューで25万〜40万円、ユーズドでは5万〜30万円ですが、今風のに限っていうならニューで35万円、ユーズドは先ず当てに出来ませんが25万円であったら見付け物です。
続いてライフル射撃に必要なウェア、現場で目立つ専用のコートとパンツです。これがあるとないでは上達の速度がまるで違う。姿勢を決め、安定させるのにあるべき装備だから一般化している訳です。これは上下ひと揃えで12〜25万円程度です。国際ライフル競技にはAR種目に限らず必ず使うものなので中古は先ず見つかりません。靴は平底で硬いブ−ツ状の専用設計のものが一般的で5万円程度です。銃を保持する側の手は手袋があったほうがいいですが、1万円以上はします。これらはARの場合特に射撃場は室内なので、見苦しく汚れ草臥れていては目立ちますので、傷んだら即刻新調です。最近はカンバスのコートやパンツもカラフルで裁断もデザインに優れたものが好まれています。銃もカラフルになっているので、安くつけるにしても色を揃えるとかコーディネイトしましょう。「あのヒトかっこいいな」と思った瞬間次の一撃は一点外を撃つものなので心遣いが後々気休めに繋がります。
眼鏡を使う人は専用のフレームを使って日用のものとは別につくっておかないと、最低でも40発の連続射撃では後半の視力と集中力が得られません。レンズ迄入れると最低5万円程度掛かるようです。コンタクトレンズは競技中にトラブルと文字通り目も当てられなくなりますので避けた方が良いです。
標的は必ず必要です。250枚〆で1500円位、沢山買うと割安になります。31.5mmの黒丸に4.5mmの弾丸を撃ち込むのですから、練習でも1枚に十個撃つのが一杯です。試合では1枚(1圏的といいますが)に1個乃至は2個射撃します。それなりに量が必要です。
弾丸は5000発ひと〆で12000円位です。
標的の確認は肉眼では出来ません。標的交換機を手許で操作して設置するのが一般的ですが、余り標的を送ったり戻したりすると「周囲の集中を阻害」し迷惑になりますので、確認の為に望遠鏡が欲しいです。倍率的にはARなら十倍で充分で、固定する三脚とあわせて1万〜7万程度となります。
銃器の手入れ道具や予備部品も忘れられません。汗を拭い錆を防ぐ為にオイル類やウェス、調整用の工具、銃身内部の手入れの為のロッドや溶剤類にも1〜2万は掛かります。
気にしないでいると痛い目を見るのがラゲッジ・パック類です。上記の「今風の銃器」は、見るからに弱々しい精密機械ですから、昔乍らの肩掛けの筒長ケースは剣呑です。トランク型ハードケースはなくてはならない装備。大体2〜6万円です。射撃場の狭い自由空間を皆で効果的に使う為、必要な衣類やその他装備を纏めて納めるバッグは、携行のことも考えると必要ですね。銃がケース込みで6kg程度、装備は10kg程度と大荷物で嵩張りますし、点数も多くなるので、紛失や人のものとの混入等事故防止の為にも、散らからないように努めましょう。

皆がやってるからこそ格好に一層こだわる必要がある。格好も得点のうちでもある。そういう競技です。オシャレを忘れずに。

昔名銃の名を欲しいままにしたモデルは以下のようなものです。今はレジャー用なら別ですが本式で試合に臨むとなると一寸お薦め出来かねます。


私も少年時代に世話になったファインベルクバウM300、完全無反動のスプリング式で全体的なバランスも良く、多くの選手が愛用しました。


国産の名銃シャープのパンターゲット3P。三姿勢競技銃としてサイドレバー一回のポンプ式は手返しに優れ当初結構使用されていました。今でも通用すると思いますが長さが短いことから今風の銃に比べると安定性が乏しくなります。但しこの型は、エアチャンバーを持っていて複数回のポンピングで実猟に向けた発射も出来たので、そうして廃れた後も用途を見い出され生き残ります。


とても良く中ったヘイリンカン120。サイドレバーポンプ式で性能的には今でも通用しそうですが、ストックの作りが単純すぎて今風でないのが残念です。ちなみに私が始めた頃既に作られていませんでした。これは現在ほぼ全く見ませんが、エアチャンバーがない為ポンプ一回のみの射撃専用なので猟用に転用出来ない為です。

特に見かけだけでなく、性能的な理由から、合理的にスプリング式・ポンプ式・圧縮ガス式各々からプリチャージ式に移行してしまうものなのです。
ひとつは、銃器に空気を圧縮する装置迄組み込むと、バランスを設計するのに限度が生じてしまいます。どんなにコネクリ廻しても圧縮装置は直線的な動作が求められます。どんなに楽でもぐるぐる廻す装置とかはつけられません。相応に重量もありますし、スプリング式に至っては、発射前と発射後では重心位置迄変わってしまう為、フォロースルーがぎくしゃくします。
続いて、その作業時に銃そのものも「レバー」の役割を持たざるを得なくなる為、必要以上に強度を求められますから、「いらないもの」を加えて設計しなければなりません。銃台は頑丈な木造であることが望まれます。しかしライフル射撃の理論からすると、銃を厳重に固定してしまうと着弾の荒れを生じさせ不都合な筈で、銃の構えさえ「柔らかく、乗せるように」が鉄則です。同じく銃身は極力銃台から浮いていなければ高精度な弾着は求めようもありません。銃台をレバーにすると知られている不都合を無理に背負い込むことにもなります。
最後に恐らく一番肝心な、放出空気量のレギュレーションが出来ないこと。装薬銃では空気銃の放出空気量に当たる装薬量に関して常に研究課題であり、一度求め得た最良の数値は容易く変えられません。そのため、装薬メーカーは同じ型番の推進薬をずっと供給し続けるのです。エアライフル射撃なら射距離は10mと決まっていて、撃ち出す弾丸の銘柄もそれ程多くないので直ぐ決められますが、排出される空気やガスの量を決められないのは最後に一つ砦を落とし損なっているのと同じです。
幾ら10mの競技であっても、十点圏の直径は0.5mm、いろいろな条件を無視して単純計算しても三百メートル先の壱円玉を撃ち抜く仕事を繰り返せと要求されている訳で、少しでも好条件でありたいと願うなら..という部分です。
空気を事前に他の装置で充填したタンクを着脱させて銃に供給すれば、銃そのものをその性能だけ追求して作れます。射撃に必要な銃の性能は、発射された弾丸の作用力即ち威力より安定性です。どんなに命中精度の高い優秀な銃身を作っても、銃になった段階での安定性が極限迄追求されていなければ、マッチョマンが射撃向けに鍛え上げても肝心なところで失中する銃が出来上がります。プリチャージ銃の実現には、高精度のレギュレ−ターの発明を待つ必要があり、こんなに長い間軽便な狩猟銃と同じ方式に頼らざるを得なかっただけなのです。

問題はそれだけではありません。
元々空気銃は、玩具や射撃の教練用として扱われた商品で、長い間大した発達はありませんでした。近代銃器の性能を大きく左右する部分に関しては、そういう動作をするだけ、の侭長く放置されました。それは、形状や操作法等ではなく、引き金機構乃ちロックです。
ポンプ式蓄圧法やガス圧式では、何等か打撃を与える構造で蓄気室の排気弁を開きます。これは装薬銃の雷管打撃構造とほぼ同じですが、打撃後動作するのは爆薬ではなくバルブであり、その後空気が銃身に放出されます。引き金操作から空気が放出され弾丸を押しはじめる迄の時間をロックタイムといいますが、如何にこれを短くするかは競技の発達に対し命題でした。そのため、動作するものを少なく出来るスプリング式を先ず射撃銃として完成させることが試されます。これなら引き金が動かす掛けがねの後はピストンだけで、バネも強いのでロックタイムは稼げます。ところがこちらにもやはり壁はありました。発射に向けて圧縮されたスプリングを保持する小さな掛け金(シアー)に大きな圧力が掛かります。これは射撃銃でも1平方センチメートル当たり2トンに及ぶ強烈な圧力です。シアーの耐久性を期待して掛かりを大きくすると、解放には大きな動作が必要ですが、精密な標的射撃の環境ではこれが命中を運命に変えてしまうのです。切れの良い解放を得る為には、掛かりの部分の精密な加工、よく研究された焼入れ技術が必要です。競技銃は練習も含めると猛烈な発射回数を求められますが、度々壊れていては競技はもとよりそのことを云々することさえ出来なくなります。いろいろ工夫され、微少な力でもシアーを解放出来る構造を得て、掛かり部の強度も改善され、特有の反動も抑えられるようになりましたが、その頃にはポンプ式のロックタイムも大分工夫改善され、一時二者の競合を見ましたが、シアーに掛かる圧力が格段に小さいポンプ式が次第に優位を示し、また先のように発達した射撃法を支える性能にも乏しさを見い出され、スプリング式は競技場を去ることになりました。しかしながら、メンテナンスが容易で準備要らずのスプリング式は今でも教習やレジャー用として有用なので製造され続けています。
ポンプ式射撃銃は今でも極少数乍ら本戦競技会でも使用されていますが、蓄圧の手段を別に求める面倒があっても、安定した初速を望めるプリチャージ式が満点中の1点を支配するようになった今、最高を求めうるものでは無くなりました。とはいえ、やはり面倒の無さは替え難いもので、スプリング式同様初心者の練習やレジャー用途への生産は続いています。

狩猟のようにワイルド環境の中で行なわれるものでない、ルール通り整備された射撃場でやる競技なので、練習に使わせておき乍ら試合をやらない射撃場は、何か「ツマラン」一ケ所がルールに見合わないから出来ないだけですがそれさえ重要ちうもので、勿論そこで競技する射手はルールに縛られている訳ですが、ものごとは時代に合わせ段々に追求されていくので、縛られている状態が「ギチギチ」から「ユルユル」にしていくのは研究次第です。時間が経てば体力や気力でカバーし得る範囲は自ずと知れて来ます。バランスを制御することは射撃の基本で、1発目から60発目迄段々に疲労していく体力に合わせ制御法を替え乍ら命中を追い求めていくスポーツですから、それに使う銃器や装具は、最もアップデートされたユルユルを用いることでリーチを近く設定出来、自分自身が楽になるものでしょう。
古い道具を使うことを全否定しません。ただ、競技において銃の所為にしなければならないことを容認する事態が出来てしまう可能性が高まるのです。一点の為に努力した結果が道具の不調で失われてはロスが大きくなり過ぎるのです。自分の所為になら誰でもしていますし納得も出来ます。但し、不具合の全部を人の所為にするには材料自体乏しいものです。何年に及ぶ鍛練と経験は非のうちどころない自信に達している筈ですが道具は自動的には成長しません。これさえなければという欠点を残したまま自信を持って競技に臨んでも、取り払われるべき欠点が悪さをするものなのです。失敗を自分の所為にして放置することは本来は冒険です。勇気が過大に必要です。

遊びとして割り切るには可能性が有り過ぎる競技がエアライフル射撃。鍛練の成果を見せる場所が身近にあり、世界には大勢の競技者がいます。だから、正しい、新しいものを、全部揃えて、と言わざるを得ないのです。

ほか、よくいわれる強さのお話も実験をしてみましたのでご覧下さい。